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逆さの砂時計
静謐の泉
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 教会でされたように雷で撃たれてはどうしようもないが、あれは多分、そうそう放ってこないと思う。彼は獲物を一気に始末するより、少しずつ甚振るほうを好みそうだ。二度対面した結果受けた印象なので、明確な根拠は無い。
 「……うん」
 震える二人を右手に乗せ、できる限り花を踏んだり折ったりしないように気を付けながら、泉の半歩手前まで歩み寄る。
 「……鏡……ですね、確かに」
 殆ど風が無いからか、水面は周りの景色を歪ませずそのまま映している。
 見下ろした自分の顔が、不思議そうに自分を見つめ返した。
 「降ろして、クロス」
 リースが指先から落ちそうな勢いで泉を覗き込むので、慌てて膝を突いて地面に下ろす。
 ふたりはととと……っと泉に走り、水に手を入れて。
 「良かった……荒らされてない」
 両手で掬った水を口に含む。
 力無く垂れていた羽根が ぴん! と立って、ふたりは同時に翔び上がった。
 「元気になれましたか?」
 「うん。もう大丈夫」
 「私達は泉の水に命を分けてもらったから。泉が傍に在る限り死なないわ」
 「良かったです」
 嬉しそうに自分の周りをくるくると翔んで……
 ふと。暗い表情で宙に静止する。
 「……リオが気になりますか?」
 「リオルカーンだけじゃなくて、皆。私達は運良くクロスツェルやマクバレン達に助けられたけど、全員がそううまくいく筈ないもの。……すごく……くやしい」
 悲しいのではなく、くやしいと涙を零す小さな精霊達。
 神々に使役されている間は戦う術があったのだろう。
 でも今、神々はいない。戦う力を失っては護れる物も護れない。
 それがどれだけもどかしい事か……元々力など持っていなかった自分には、推し量るのも難しい。
 「状況はそれぞれ異なっているでしょう。けれど貴女達は今こうして泉へと帰還を果たし、結果として生き延びた。他の方々もまだ辿り着けていないだけで、此方に向かっているかも知れません。今度は貴女達が、貴女達を必要とする誰かを救う番ではありませんか?」
 ハッと顔を上げて自分を見つめる精霊達に、そっと微笑む。
 「遠くじゃなくて良い。もしかしたら近くまで来ているかも知れない。貴女達の新しい役目は、仲間に泉の無事を伝え、届きそうな手を引き寄せる事ではないでしょうか」
 精霊については精霊が一番よく解っている。
 彼女達がそうであったように、多くは遠くまで逃げて戻るのを拒んだと思う。自分の言葉など気休めにもならない筈だ。
 それでも。
 もしかしたら。
 彼女達が伸ばせば、掴める手があるかも知れない。
 何もできなかったと悔やむくらいなら、無駄だと思っても動くほうが良い。
 それはきっと、無駄にはならない。
 「リオは生きています。諦めるにはまだ早いでしょう?」
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