放浪剣士
異端審問官W
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「悪趣味な服装ね」
目の前にいるのが、異端審問官の頂点に君臨する男と知らないからか、彼女は余裕な態度を崩さない。
「面白い女だ」
ベルモンドはその深紅の剣を引き抜き、あの気味の悪い笑みを浮かべる。
ここで殺るつもりか―――。
ここが貧困街の片隅とはいえ、二人が激突すれば被害は街全体に及ぶことは容易に想像できる。
だが、情けない事に私には二人を止める力などない。
やめろ、民にも危害が及ぶ―――。
私にはこうして二人を言葉で説得する他に手段はない。
だが。
「残念だが…私達、異端審問官と異端者の殺し合いはお互いに出会ったときに始まる」
ゆらりと身体をしならせると、次の瞬間にはベルモンドの剣はすでに彼女へと降り下ろされていた。
「たとえ、幾千幾万の民の命が失われようとな」
しかし、ベルモンドの刃は彼女を捉えられずに終わる。
紙一重で、アーシェはその一撃を避けていたのだ。
宙にはらりと舞う赤い頭髪。
それが地面へと落ちる前に、ベルモンドは幾重もの斬撃を繰り出しアーシェを追い詰める。
しかし、彼女は一向に反撃しようとはしない。
いや、できないのか。
彼女の表情から余裕は消えている。
「この女、本気を出しているのか?この程度の魔女ならお前が殺せないとも思えないが?」
ベルモンドの挑発に、珍しくアーシェは苛立ちを見せた。
「調子にのり過ぎね」
彼女が手を一振りすると、ベルモンドの周りを余すところなく炎の槍が囲む。
それをどうこうする暇もなく襲いかかる炎の槍。
それはベルモンドの全身に突き刺さった。
かのように思えた。
現実には、炎の槍はベルモンドの衣服に触れた瞬間に先の方から霧散してゆく。
「その程度では防ぐまでもない」
懐より数枚の札を取りだし、ベルモンドはアーシェへとそれを飛ばした。
反応しきれず、左腕に貼り付く札。
その瞬間幾つもの鉛が取り付けられたかのように彼女はがくんと膝をつき、腕は地面に貼り付けられた。
彼女はそれを引き剥がそうとするが、剥がれる気配はない。
やがて、彼女は諦めたのかその行為をやめ、頭をだらんと下げた。
「無駄な時間だったな」
ベルモンドは剣を納め、その視線を私に移す。
「お前が始末しろ」
ベルモンドの鋭い眼光。
私を試しているのか?
私に彼女を殺すことができるのかを。
ここで拒否すれば、私は間違いなく粛清対象。
やるしかない。
こんな所で殺されるわけにはいかないのだ。
それにいずれは彼女を殺すことになる。
それが早まっただけだ。
私は剣に手をかけ、静かに引き抜く。
なぜ動かない?
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