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逆さの砂時計
異国の大地
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 国境を跨いだ石造りの瓢箪型一層建築物の周辺は、夜だというのにとても賑やかだ。
 暗がりの中で行列が進む先は、高すぎる天井から幾つものシャンデリアが吊り下がり、無数の床置き型燭台がずらりと並ぶ広い屋内。
 その丁度真ん中に行く手を遮る大きな扉付きの鉄格子を立てて、見張り役の見送りと歓迎の元、両端の役所で渡国許可証を認められた者だけが行き来している。
 馬車を転がしている多くは、商人か芸団だろう。個人旅行者は少ないようだ。
 「ーーーーーー? ーーー!」
 「ーーー! ……ーー? ーー!」
 「ーーー。ーーー?」
 「おー……すげぇ。何言ってるのか、さっぱり解らん」
 ベゼドラが唖然とするのも無理はない。
 たった今足を踏み入れたばかりのこの国は、他大陸の民族に侵略された後発展した歴史的背景がある。
 その為、今まで居た国とは公用語も公用文字も主要宗教も違う。
 聞き慣れないのは当然……しかし、よくよく考えてみればベゼドラはそもそも神代の存在だった筈。
 「私達の国の言葉や文字は、何故か理解してますよね? 貴方もリースも」
 隣をてくてくと歩く真っ黒な悪魔に顔を向ければ、彼は ん? と眉を寄せた。
 「いや、あれは人間の普通だろ? 文字は違ってたから、お前が持ってた教典で覚えたが」
 「人間の普通、ですか?」
 「私は文字は読めないけど、クロスの……国? で聞いてた言葉は昔から殆ど変わってないの。使い方や単語の意味は多少変化してるみたいだけど、アリア様が教えてくださった響きにそっくりよ。だから、クロスと言葉が通じてちょっと嬉しかった。逃げてた時、たまに遠くで話してる人間を見掛けたけど、最初は言葉なのかどうかさえ判らなかったわ」
 ポケットの中から潜めた声が疑問に答えてくれた。
 アリアが目覚める前……つまり数千年前から、あの国の言葉に大きな変化は無かったのか。ただ、文字は変わっていたと。
 面白いな。どういう経過でそうなったのだろう。
 アリアや悪魔は眠っていたから知らないとしても、リースは……泉からずっと離れてなかったのかな。理解できなかったというなら、多分そうだ。
 変遷を見届けた人物がいないのは少し残念かも知れない。
 あ、レゾネクトは除く。
 これまでの流れからして彼なら知っていそうだし、なんとなく尋けば教えてくれそうな気もするが、のんびりお話ししたい相手ではない。
 「私も此方の国の言葉はあまり得意ではないのですが、少しずつ慣れるしかありませんね」
 「言葉に慣れるより泉へ向かうほうが優先だろ。とっとと行くぞ」
 「……ええ」
 歩く速度を早めるベゼドラの数歩斜め後ろを付いて行く。
 それにしても本当に賑やかだ。
 周囲を見渡せば、自分達とは逆に進む人のほうが断然多い。
 中には宗教関係者と
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