89話
[7/7]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
(簡単なことだよ。貴様が最後にこちらにつくことは知っていた。味方側に付くならお前は戦力としては十分期待できる。お前がクレイに惚れているのは知っているからな。それだけだ)
そもそも、と、《ゼータプラス》の視線が《デルタカイ》に移る。ビームサーベルの発振は途絶え、限界出力に耐えきれなかった右腕がスパークを起こしていた。
(そもそもさっきお前が背後からロックした時からだ。貴様たちがクレイを手に入れたがっていたのも知っていたから、あいつを引き入れようとするのはわかる。だがあの場面で私を生かしておく必要はない。いや、むしろ私は邪魔な存在だ。最初の時点で私を殺しに行かなければ可笑しいはずだろう? なのにお前がまず最初に狙いを定めたのは私ではなかった)
もっとも、そうしていたらお前は死んでいたわけだが。フェニクスが皮肉っぽい声を上げた。
(―――だが、それに気づかない中佐では、ないはずなのだがな)
フェニクスの呟きには、いつも通りの凛乎とした様子が無い。その声は少女のような頼りなさで、暗い森の中を独りで歩いているように慄いているようにも感じられた。
フェニクス・カルナップがガスパール・コクトーとどんな関係にあったかは、攸人の知らない出来事である。知っていることは、共に初期のティターンズに参加した一員として戦場を駆けた人間たちという共通項だけだ。その項目がどれほどの重さを持つのかも、神裂攸人の知る由のないことである。
フェニクスは何も語らず、《ゼータプラス》のビームサーベルの発振を抑えた。
宙を揺蕩う二つの残骸。
それは、誰の里程標なのだろう。ガスパールという男の死がただそこに臨在しているだけなのか、それともそこには一人の人間の生の道程の痕跡が覗いているのか。あるいはもっと、より深い何者かの幻想が―――。
(―――エレア)
フェニクスの、名詞で名指すことの出来ない声色がヘッドフォン越しに攸人の肌にふれる。
《デルタカイ》は何も語らない。
痕だらけ白い神話は、既に蒼い瞳の閃きも喪失している。
そこには、ただ、何かのシーニュが漂っているだけだった。
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ