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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
86話
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、単なる偶然だった。
 士官学校でも成績上位に位置する知り合いのつてでその組織の存在を知っただけで、攸人の方から入ろうと意思したわけではない。ただ、友達付き合いの一環で、その組織の集会に参加しただけだったのだ。
 曰く、民主主義という政治概念への拒絶と、新たな秩序の形成。それが、その組織の理念だった。
 攸人には馴染み易いイデオローグだ。宇宙世紀に入ってなお、彼の出身である日本では全くと言って民主主義という言葉が浸透していない。元々被害者意識ばかり強く、己の力で何もしていない人種の集まりだ。人からもらったものをただ使い潰していくだけの、無能の集まりなのである。まぁ、それは既に日本だけの話ではないのだがそれはいい。ともかく、民衆に政治を任せていては人間と社会は頽廃するだけであり、より高い身分の人間が政治を執るべきであるという主張を、残念ながら身近に感じることは出来たのだ。
 少しだけ、面白そうだな、と思った攸人はそれに参加して、そして元々気品はあったし才気も持ち合わせていただけにすぐに組織に受け入れられていった。
 クレイ・ハイデガーの監視を任されたのは、そんな経緯の途中である。将来的に予定されているとある計画のキーパーソンとして、その動向を探る。それが攸人が請け負った任務だった。
 クレイがどういう人生を歩んでいるのか―――その裏の内実をも知ったのも、その時である。
 初めて見かけたときは知らなかった。だが、その事実を―――人形の人生を知って、攸人の頭に浮かんだのはあの夕暮れの光景だった。
 ただ、色のない表情でずっと汗を流し続ける男の姿。
 その行為は単に誰かの掌の上で、マリオネットのように動かされるだけの行為以上のものではない。それは単なる無為な行為で、それ以上でも以下でもないものなのだ。
 それでも。
 それでも、その光景を愛しいと感じたのは何だったのか。偽りの生、虚構の生き様に心が微かに揺らいだのは、何だったのか。
 根本的に違うのだ。
 神裂攸人は全てを持っていた。特に努力も無く全てを高水準にこなし、全てをそつなくこなせるからこそ、己の人生に満足を感じられない。充実が無い。単なる出来事の通過以上の横溢が無い、空疎な人生。取るに足らないことで満足を覚えている愚かな人間を目にし続けることで感じる世界の愚劣さと、それに共感できない己の非人間感。
 クレイ・ハイデガーは何も持っていなかった。どうあがいても自力では水準を少し上回ることしかできず、背後からの権力の戦略ゲームが無ければ凡庸なだけの人生しか歩めなかったはずの人間。己の無能を自覚し、努力を重ね、その度に自分の無力を突きつけられる。その過程で得た微かな達成感を積み上げて建築した砂上の楼閣に満足を覚えながら、そしてその満足の脆さを自覚しながら、懸命にもっと上に行きたいと願い続
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