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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
84話
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して右腕の3連装のガトリング砲を構えた瞬間だった。
 まるで何かの襲撃に怯えるかのように《ドライセン》が身を竦める―――そうして、次の瞬間には上と左方から襲来したメガ粒子の光軸が《ドライセン》を交点にして、常闇に十字を描いていた。
(クレイ、大丈夫か?)
 ディスプレイ上の中央に通信ウィンドウが映るのに合わせて、逆さになった《リゼル》が視界の前をふわふわと流れていく。
「あぁ、大丈夫だ―――援護、感謝する」
 インコム1基がバックパックに収容される。その報告がディスプレイに表示されるのを一瞬だけ視線を流して確認した。
 通信ウィンドウの向こうの黒い髪の男の顔に、クレイは微かな驚きを覚えた。
 心配げな顔、そうとも言える。苦痛、そうとも言える。悔恨、そうとも言える。侮蔑、そうとも言える。その男の顔はそのどれでもあって、だがそのどれかに同定するには違和感のある顔だ。
 彼はそういう表情をする男ではなかった。もっと、はっきりとした感情を表現する男だった。そう、もっと―――。
 ずきりと頭蓋の中身が軋む。何か忘れている気がするが、クレイは何を忘れているのかよくわからなかった。
(小隊各機、全機無事だな)
 頭の端で引っかかるものを感じながら、無線越しに鼓膜を叩いたフェニクスに声に意識を集中させた。
 ウィンドウに映るフェニクスはいつも通り表情一つ変えていない―――己の目の前でエレアが連れ去られたというのに。
 フェニクスがエレアをどう思っているか。フェニクスが任務中エレアと接する際は誰と接するのと変わらないが、エレアの普段の言葉の端から窺い知ることは、できる。
(04、損傷有りません)
「こちら08、同じく損害無し」
 どこかに感じる鈍痛も、フェニクスに比べれば大したことはない。
 宇宙空間に死体のように漂う《ドライセン》が視界の隅に流れる。パイロットを喪失してもなお単眼を閃かせ続けるガンダリウム合金の塊。クレイは顔色1つ変えずに視線を逸らした。
(あの……フランドール中尉の指定座標はまだ?)
(―――サイコモニターも機能していない。さっきのあのΖ系の機体にサイコミュのコントロールを強制的に奪われたらしいな)
 その口調は酷く他人事のようだ。機内カメラに映るフェニクスの表情は変化というものを遥かに忘却したかのように不変の様相を帯びていた。
(ふん、それにしてもこれでは何と戦っているのかわからんな)
 冷めた声で言うフェニクス。彼女の灰色の《ゼータプラス》の前には、頭部ユニットを綺麗に喪失した《リックディアス》が四肢をだらけさせていた。
(サイド4もまだ新造されたばかりとはいえ、こう警備がザルではな。いや―――)
 フェニクスが何かを口走った瞬間、クレイは背骨の中の液で満たされた場所に、沸騰した白濁液を流し込まれるような
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