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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
83話
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、思うことがある。彼女には、意味か目的を考えられるように生きて欲しい。ただのツールとして、ではなく、己の生としての人生を―――。それを考えることも、もしかしたら傲慢かもしれない。自分は彼女に誰かを重ねているだけ、なのかもしれない。それが正しいことではないことも理解はしている。
 だが、少しくらいは意味があってもいい。たとえそれが傲慢だとしても、だ。
 スラスターを背負った〈ガンダム〉が肉迫する。口の端から垂れた何かの液体を腕で拭い、震える手でスロットルを開放しながら、エイリィはふと誰か、見知った顔が頭を掠めるのを感じた。
 あぁ、もう一つ嘘をついている。私はあの子にまた会おう、と約束していたのだ。あの子の笑顔が見てみたいと、思ったのだ。そしてもっと笑っていたほうが貴女は綺麗で可愛いよ、と言うつもりだったのに―――。
 その仕事は己の為す仕事ではなかったのだ。あの少女に笑顔を見せてくれる誰か、押しつけがましいが、その仕事はその誰かに任せよう。
 そうだなぁ―――あのどこか生真面目そうで、張りつめた身体の少女に笑顔を与える存在は、案外平凡なガキなんじゃなかろうーか、と思う。如何にもどこにでも居そうな、野暮な顔つきの少年。よれよれの服を着て、あまり手入れがされているとも思えない髪型の、パッとしない年下の少年。高嶺の華を手に取るのは、案外何でもない男というのが世の常なのである。マリーダ・クルスも、そんな少年の手を取るのが似合いな気がする。
 お節介な話か―――エイリィは、片方の口角を上げながら、全天周囲モニターに視線を投げた。
 彼我距離を縮める白の〈ガンダム〉――――――。
 歯がかちゃかちゃと音を立てる。操縦桿を握る手の力は震えて、エイリィはまだ無事な内蔵がぐにゃりと捩れるのをありありと感じた。
 アーモンド色の眼差しを無理やり固めて、エイリィは強張る両手の筋肉をなんとか収縮させた。
「――――――ここから先へは、イカさないって言ってんのさ!」
 真空の中で大翼を広げ、両肩のスラスターの閃光を爆発させた漆黒の《キュベレイ》は、真正面から〈ガンダム〉へと猪突した。
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