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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
82話
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体を痙攣させ、今にもその封印を破戒しようとしている―――。
(わかりません、コクピットハッチの強制開放の入力も受け付けなくて……)
「機体の主機は落とせませんか!?」
(そっちもダメです、完全に外部からの干渉を受け付けません!)
 無線越しに返ってくる悲鳴に歯軋りしたモニカは、一際けたましい金属の破断音に思わず身を屈めた。
 重たい振動が臓腑を打つ。恐る恐る顔を上げたモニカは、眼前の巨神が一歩足を踏み出した光景を、見た。
 あの中には誰も居ない。にも拘らずあの機体が動き出したその理由など、今はモニカにはどうでもいい問題だった。
 ただ、あの機体はサナリィの資産なのだ。このまま正体不明の原因で機体が損なわれでもしたら―――。
「――――!」
 誰かの声が耳朶を打った、と思ったときには誰かの手に掴まっていた。その誰かに強く引き寄せられたまま、壁に埋め込まれた管制室の中に引き込まれる瞬間、モニカの視界が白く染まった。
 じゅ、という何かが焼ける音とともにオゾン臭が鼻をつく。灼熱で肌を炙られるような感触に、彼女は甲高い悲鳴を上げた。
「おい」
 その誰か、が酷く不愛想な声を上げる。はっとして顔をあげれば、青白い騎士を名乗る黒髪の東洋人の顔があった。
「怪我は無いか?」
 男が顔を覗き込む。心配している風には全く見えないが、それでも微かにほど眉を寄せているあたり、恐らく―――というか実際心配しているのだろう。
「えぇ―――なんとか」
 言いながら、管制室の窓から外を覗いた。
 バックパックに背負った身長ほどもある巨大なビームスマートガンを構えた《Sガンダム》が仁王立ちし、その先の隔壁にぽっかりと風穴が穿たれていた。
 あのビームスマートガンは最大出力なら既存の兵器を優に上回る火力を誇る。コロニーの隔壁を数枚撃ちぬくなど容易いことだろう。
 《Sガンダム》がスマートガンを投棄し、両腕に装備したアームドアーマーを展開する。背部バックパックのフラップがぱたぱたと稼働し、青白い焔を幽らめかせる。
 スラスターの炎を一際大きく迸らせた《Sガンダム》は、そのまま昏い断層の向こうへと飛び立っていった。
 壁一枚隔てて真空の世界、風穴の向こうに煌めく恒星の光を網膜に映したモニカの瞳はその物理的世界とは別な光景を捉えていた。
 腕組みした女の姿。暗い部屋の中でコンピューターが照らす青白い光を受け、エメラルドの一瞥だけくれた女帝の口が蠱惑的に蠢く。
 己の為すべきこと、為さねばならぬこと。それは、己の手で付ける。それが、上に立つ人間の在り方―――譬えそれが外道畜生道に堕すものだとしても。
 この管制室の通信設備は、司令部通信施設と同程度の性能の設備が整っている。だとしたら、己の、為すべきことは、決まっている。
 咽喉を鳴らす。心臓が痛い。
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