81話
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アッパーで破壊した漆黒の《ゼータプラス》が歩みを進める。
(聞いていた話と違うではないか! 例のシステムを使えば『白雪姫』は目覚めないと……)
「おい、《デルタカイ》出すぞ! あれを止められるのはこいつしかいない!」
無線越しに聞こえる艦長の声を聞き流し、首のアタッチメントにぶら下がっていたヘルメットを被ったガスパールは近くのメカニックに怒声を浴びせた。
《ゼータプラス》が壁際に懸架されたビームライフルを手に取る。そうしてグリップを掴み、トリガーに指を重ねると、《ゼータプラス》は躊躇など欠片も無く格納庫のハッチ目掛けて銃口を指向した。
視界が白く染まる。数千度を優に超える白閃光は、コロンブス級の内壁を灼熱へと変化させる。高出力で長時間照射されたメガ粒子はまず小さな孔を抉り、そして一瞬で周囲を溶解させてMS1機が通れるほどの黒々した孔を開けた。
真空へと開いた孔から逃げるように空気が漏れていく。慌ててコクピットの中に身を滑らせたガスパールは、暗い空間の中で自分の左手の掌に目を落とした。
誰だっただろう。自分の記憶にすら碌に影を残していない誰かの容貌を想起し、そしてキャットウォークに広がった赤い残骸、誰がどれなのかすら不明になった1つの塊。
全身の血管がうねる。脳髄のどこか、きっと情動を司るどこかの部位が声を張り上げる。
何に怒りを感じているのか。
ようやく明かりの開いた全天周囲モニターの向こうでスラスターを焚く黒い《ゼータプラス》にか?
それともこの一連の出来事を画策した人間か?
それとも自分にか?
ふと浮かんだ思惟のままに操縦桿を握り、素早く、なお正確に機体を起動させていく。
黒い《ゼータプラス》が闇へと飛翔する―――。
悪態をつきながらガスパールは、未だ《デルタカイ》の正面のキャットウォーク上に人がいることなど気にも留めずに《デルタカイ》の右腕を振り下ろした。まるでプラスチックのスプーンをへし折るかのように通路を破壊し、上に乗っていた誰かの悲鳴が耳朶を打つのに不快を感じながら、《デルタカイ》をMS1機が通れるほどの穴へと相対させた。
あれを喪ってなるものか。あんな玩具のために、あんなもののために、一体どれだけの有望な仲間たちが逝ったことか―――。
(同志、格納庫内でスラスターは……!)
「クソッタレが、ここまで来て逃すものか!」
スロットルを開放し、フットペダルを踏み込む。閃光を爆発させた《デルタカイ》が翼を広げ、真空の常闇へと羽撃たいた。
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