81話
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振動がキャットウォークの上を揺らし始めた。
起動した―――何故、パイロットは麻酔で昏睡状態に陥っている筈で――――と一瞬思案した瞬間に、その鋭利な瞳にぎらと光が灯り、キャットウォーク上の人間を見下ろした。
なまじ人間に相似したカメラ配列のせいもあった。それはさながら神罰を下す超越者の、色のない瞳が卑俗な人間たちの群れを見下ろして―――。
ずるりと何かが引き出された。まるで内蔵を、脊髄を、脳みそをずるずると引きずり出されるような異様な激痛と混じり気の無い純粋無垢な恐怖の感情が意識系列をびっしりと埋めつくしていく―――。
「なんだ、こいつ急に!」
「―――離れろ!」
絶叫しながら飛びのいたガスパールは、間際に誰かの手を掴んだ。
閃光が膨れ上がった。鼓膜を暴力的に殴りつける甲高い音は、アナハイム・エレクトロクス社が採用している60mm頭部機関砲の発砲音だった。一瞬の間隙も無く、丸々太った蠅がぶんぶん飛んでいるかのような音と共に射出された金属質の鋭い猛禽の如き眼差しを想起させる志向は、羊のように無防備なメカマンたちの群れに襲い掛かった。
60mm機関砲の弾丸は、人間に直撃すれば一たまりも無いなどという、陳腐な言葉を語ることがなんて無責任なんだと思うほどの威力がある。事態を把握しきれない人間に降りかかった砲弾はそのまま5、6人いた人間たちの頭蓋を砕き、脳髄を破裂させ、四肢を四散させ、細切れになった肉をさらに細かく裁断していった。
わずか数秒―――いや、もっと短かったかもしれない。とにかく、それだけの時間で、ガスパールの視線の先に、単なる肉の塊が―――元々何人いたのか判別不可能なほどに混ざり合ったミンチ肉が重なり合っていた。
ガスパールは、なんとか、握りしめた誰かの方に目をやって、咽喉が痙攣した。
宇宙服に包まれた手。その先に肩があって、胸部があって、頭が、半分、だけ―――。
それだけ。ガスパールが握りしめた手の先で、無重力に揺蕩う辛うじて人間だったと理解できる肉の塊があるばかりだった。かつて人間の思惟を司っていた高尚な器官、頭部は半分だけ保存されていて、白いくりっとした目が視神経に繋がれてふわふわと―――。
目を閉じかけた瞬間、そのかつて目だったものがぎょろとガスパールに眼差しを与える。意思のない視線がじっとりとガスパールの中へと流れ込んでいく―――。
(こちらブリッジ、格納庫で何があった!)
不意に耳朶を叩いた声に我に返ったガスパールは、手に繋がった遺構から手を離した。
(こちら格納庫、『白雪姫』が意識を取り戻した! メカニックの何人かが―――うわ!?)
《ゼータプラス》が身動ぎする。機体を両側から固定する支持アームを無理やり引きはがし、檻のように前にかかっていたキャットウォークを右の
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