81話
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明るい知悉、光に当てられなおの事はっきりと輪郭を刻む無時間的な野の道の記憶。その上を駆けていく風は冬の嵐と豊饒の緑が混じり合い、春萌ゆる湿り気を孕む。色濃い残り香を漂逸させ、背の高い木の上を、晴れやかなる高き天の秋空を穏やかに流れていった崩御の肌触りは、そのまま永劫に回り続ける大いなる原初の一なるものへと還っていく。
今まで音一つ立てなかったそれが身動ぎする。そして少女の姿を戸口に認めた男は、どこか気恥ずかしそうにはにかんだ。
あぁそうだ―――わたし、が守りたいもの、守らなければならないもの。わたし、が奪ってしまったもの。わたしの中に神聖なるものを、精液をふきこんだもの……。
薄く目を開ける。硝子体が淀んだように視界ははっきりしない。先ほど酷く長い刹那の瞬間に見た光景はもう、混濁した記憶の隙間の中に隠れてしまった。その光景が単なる幻想なのか遥か未来のことなのか、それともずっと昔の在りもしない記憶なのかは、よくわからないけれど。
わたし、は、確かに、立ち現われる彼を感じている。
身体が、心が、それが、彼の形相をはっきりと覚えている。
行かなくちゃ―――そして、そして。
エレア・フランドールは操縦桿を握りしめた。
※
「―――なんだ?」
ガスパールはふと感じた明示し難い悪寒に顔を上げた。
《ゼータプラス》を無事確保してから十数分。予定では既に機体からパイロットを降ろしてどちらも不祥事が起きないように厳重に『保管』していなければならない筈だが、ガスパールは未だコロンブス級の格納庫に居た。
機体のコクピットハッチは本来製造会社を問わずに規定の入力をすれば開放されることになっている。だが、この《ゼータプラス》は何かしらのセキュリティにより外部入力を完全に受け付けないように改修されているのだ。そう言うわけで、《ゼータプラス》のコクピットハッチをなんとか開けようとエンジニアとメカニックが取り掛かっているところだった。
黒々した《ゼータプラス》のコクピットの前、かたかたと忙しなくコンピューターを操作する技術屋数人を目端に捉えながら、ガスパールは顔を上げた。
あの《デルタカイ》とかいう機体に乗ってからだ。何か異様に意識が先鋭化する。サイコミュシステムを積んだ何かの機体、というのは聞いていたが、その詳細はガスパールの聞き知ったことではなかった。『エウテュプロン』が連邦政府の高官から受け取る手はずを整え、ガスパールはそれを受領するのが仕事なのだ。
サイコミュシステムが何等かの影響を及ぼしている。そう考えるのが妥当なのだろうか。
だとしたら、この悪寒は―――?
「―――あれ、この《ゼータプラス》……」
エンジニアの1人の女性が顔を上げた時だった。その漆黒の体躯の主機が立ち上がる音と共に、微かな
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