80話
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ず、ガスパールはその違和感を、長丁場が感じさせた疲労と解した。
正面のディスプレイに、すぐ後ろに追従する漆黒の《ゼータプラス》の映像が立ち上がる。
無線通信の回線は開いていないが、データリンクから彼女の意識はほとんどないことは知っていた。
サイコミュシステム―――サイコ・インテグラルシステムを強制作動させると同時に、多種薬物と後催眠暗示の複合使用することでガスパールのコントロール下に置く。最悪エレア・フランドールは廃人と化すだろうが、ガスパールには至極どうでもいいことのように、思った。死なれては問題だが、必要なのは肉体の方だ。心は生きていようがいまいが大して重大ではない―――。
ずきりと何かが軋んだ。鈍い疼痛が後頭部と前頭葉に広がり、呻いたガスパールは脱力しながらシートに身を預け、ノーマルスーツのバイザーを上げた。
違う、と身体が絶叫する。お前のすべきこと、お前の理想はこんなものなのか、と詰問調の怒号が頭の中で反響し、ガスパールは臓腑から急激に這い上がってきた嘔吐感に思わず口を抑えた。
そんな感情は知らない。抱いたことも無い。己はただ、この作戦を成功させるために在る筈なのだ―――。
消化器官が不定に蠢動する奇妙な嘔吐感を何とか堪え、喘ぎながら息を吸い込んだガスパールは、射るような視線を虚空に投げた。
(―――同志? 聞こえていますか? 同志!)
ハッとして、ガスパールはディスプレイに映るオペレーターの顔を見返した。通信ディスプレイに映る女のオペレーターは不安げに眉を寄せていた。
「すまない……私も大分疲労が溜まっているようだ」
(無理もありませんよ。さぁ、早く艦の中でお休みください。貴方は私たちにとって大事な人ですから)
オペレーターが柔らかな笑みを浮かべる。いつもは闊達そうだが、その微笑はどこか母性的な揺籃の感覚を思わせた。
視界の向こうでガイド用のビーコンがコロンブス級の格納庫から伸びていく。管制を始めたオペレーターの声に従いながら、ガスパールは己の裡から思い出したように奇妙な感覚が惹起したのを感じた。
今生真面目な声を出して己に管制を行うこの女を無茶苦茶に強姦してやりたい、と思った。特に理由も無く、ただこの女を己で満たしてやりたいと―――。
操縦桿を握りしめた。
確かに疲れている。空虚な妄想を想像して、そんな理由で己を強張らせるくらいには疲労している。
足元の収納スペースから青く古臭いタオルを取り出し、バイザーを開けて顔を拭う。じっとりとした汗が拭きとられ、微かばかりはマシな気分になったような気がした。
(―――『白雪姫』、着艦確認。『銀の弾丸』、着艦開始します。I have control)
「了解。You have control」
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