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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
70話
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いるが故にエレアの目は決然とクレイを見返した。
「警報音―――司令部に戻らなきゃ」
 クレイは彼女を抱きながら、顔を周囲に向けた。
 突然のその音に誰しも目を白黒させていたが、流石に軍事関係者が多いコロニーらしい。パニックが起きるような様子もなく、何人かの男が声を上げて周りの人間に指示を出しているらしかった。
 その内の1人と目が会う。スーツに身を包んだ男が頷くと、足早にクレイの元へと駆け寄る。
「すみません、ハイデガー少尉でいらっしゃいますか?」
「ええ。貴方は?」
「警備部隊のものです。市民の誘導は我々が行いますから、貴官は格納庫にお戻りください」
 目を見開く。なるほど休暇中の警備の人間かと把握する。
「何があったんですか?」
「いえ、それはこちらでも……」
 申し訳なさそうに男が身を竦める。それもそうかと思い直して男に礼を言い、エレアの手を握り、クレイはエレアの足元に目を落とした。彼女が履いている黒いヒールはあまり高くないとは言え、流石に走るのには適していない。
 逡巡も無くクレイはエレアの身体を抱き上げる。彼女の小さい悲鳴が微かに鼓膜を打つのも構わず、高々20kmほどなら彼女を抱いたまま走れることを把握すると、彼女の肩と膝の辺りを強く抱き寄せて、あとは足を前に出して―――。
 クレイの(からだ)がそれを志向しかた刹那、異様なほどの悪寒が身体(こころ)を舐めた。
「クレイ!」
 抱きかかえたエレアが悲鳴をあげる。それより早く、その悪寒がなんであるかを―――あの実戦の時に感じた、確かな虚無への還元へのあまりにも?い恐れだと想起したクレイは、そのパシオーの原因、自分の背後を丐眄した。
 誰か、黒髪の女が右手に構えた何かをクレイに向けていた。黒々としていて、その切っ先の孔からはとても嫌な金属の塊が飛び出すんだ、と嫌にシンプルな考えが頭を過る。
 その女の指はトリガーガードの下に潜り込んでいて、サイトは確実にクレイを捉えていた。
 女は神に贖罪を求める追放の民のように、決然と怯えが同居した形相をしていた。その行為に罪悪を感じて、それでも成せばならぬと―――それが己の役割と理解し、滅私に徹する幼げなかんばせ。どこかで見たことがあるようなその顔を見て、クレイは明瞭な輪郭を伴った単一現象への還元をありありと感じた。
 右手の人差し指の腹が重たい引き金を押し込む。マズルフラッシュが爆発し、バレルから飛び出した金属の断片は銃声が響くのと同時に頭部の皮膚を食い破り肉を貫き、頭骨を綺麗に破砕して、破壊された骨片と共に内容物を滅茶苦茶の血塗れにした。
 綺麗な赤い華が咲いた。てらてらした血液の飛沫が飛び散り、クレイの顔に付着した。
 悲鳴、絶叫、怒声。人間の発した音声と共にエレカのブレーキを踏む甲高い音が鼓膜を貫き、そこでようやく
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