70話
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時間は警戒しているというのに、ほとんどページが進んでいない。
ありえないことではない。なるほど哲学書を丁寧に精読しようと思えば、数ページとはいえ長い時間がかかる。この本もそれなりに有名な本で、歴史的にも注目されてきた本だ。だが、読んでみれば一文読むことすら困難というほどでもなく、何を言わんとしているのかを把握すること自体は簡単だ。
最初のページだけに、その戦闘の残痕が刻まれている。捲ってみれば、同じ個所に何回も赤のボールペンで線が引かれている場所もあれば、一度だけ素っ気なく引かれている場所もある。まるで他人と話す人見知りのような姿勢は後の方になればなるほど顕著で、それはまるで毎回最初から読んでいるかのようで―――。
―――フェニクスは、目を見開いた。そして、振り返って背後のスライドドアを視界に入れた。
―――だとしたら。
視界に掠めるモニカの表情―――彼女に連絡を取らなければ。フェニクスは手にした資料を放り棄て、己の役割を忘れてしまったかのように誰をも招き入れるドアが開くのも待てぬと言った体で部屋を出て、無線機を手に取った。
普段の軍用コードとば別なコードにセットしかけ―――。
甲高い音が鼓膜を刺した。不安を一気に煽るようなその音が鼓膜を叩き耳小骨を揺さぶり、蝸牛の中のリンパ液がぐらぐらと揺れる。聴覚神経を伝った電気信号は、フェニクスの頭の中で警戒警報の意に解釈された。
「これは―――!?」
瞠目は刹那。
一瞬で事態を理解したフェニクスは、その宿舎中に―――コロニー中に響くその音に背を押されるようにして、駆けだした。
※
同時刻
「面白かったねー」
満足気に笑みを浮かべるエレアに、クレイも頷いた。
『魔法少尉パンツァー☆彡りいな』。3年ほどに極東日本で制作されたアニメの続編映画が今日公開だったのだ。
アニメ公開直前はプリティーでキュアキュアなジュニアハイスクールの少女たちが魔法少女に変身して戦うというシナリオの鉄板さと柔らかいタッチの絵柄をウリにしたアニメと思わせておきながら、ハードミリタリー・ハードSF用語がガトリングの弾丸の如く飛び交い、立ち入った哲学的議論が烈火の如く繰り広げられるなど一般人を置いてけぼりにし、分野の知識人を大いに唸らせた怪アニメとして名高い作品―――らしい。ともかく、今日公開された劇場版は、本編のその後の話である。魔法少女たちの服が迷彩仕様だったり、魔法の杖にトリガーとバイポットとスコープが装備されていたりとハチャメチャなのは相変わらずだったが、よもや上映終了とともに映画館が拍手で包まれるとは思わなかった。
「野戦兵の女の子って生理どうしてるのかな? 銃なんて撃ってる場合じゃないと思うんだけど」
「そ、そうなのか……」
そこは釈然としない、と言った風に口をとがらせ
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