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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
69話
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ういう姿勢を心の中では疎ましく思っていることも。
 彼は、そういう足掻く人間なのだろう。ただ、それだけのことだ。
 だから、彼はさっさと帰路について然るべきだったのだ。さっさと帰って、いつも通り無味乾燥な日常を送ろう―――。
 だが、彼は足を動かさなかった。ただ、そのひたすら不毛な道程を走るその男を眺めつづけた。
 ドラスティックな心境の変化があったわけではない。別に、努力するその姿に感銘を受けて、その価値の有難さを知ったわけではない。彼にとってはその不毛と知ってなお不毛な道を進むことを止めないその無意味な姿勢は全く理解不能で意味不明だった。
 否、だからこそ。
 あの存在者は、一体何なのだろう―――?
 その原-存在の亀裂から見える何かの前-価値を―――あるいは超越-価値の存在の到来の予言を、彼の認識装置は把持していた。
 ※
「どーだろーか」
 万歳するように両手を水平に持ち上げる。眼前の男はベッドに座ったまま名の知れた探偵が緑色の目を光らせるように顎に手を当て、品定めする視線をクレイに向けていた。
 時刻は朝の9時を回ったところで、起床時間からは大分時間が過ぎていた。にも関わらず目の前の男―――神裂攸人には時間に追われている雰囲気は無く、クレイはそもそもSDUすら着ていなかった。
 白いシャツにワインレッドのジャケット、そしてボトムスに黒のパンツという出で立ちはどう見ても軍人感の欠片も無い。クレイの表情も、まるでフォーマルスーツを着て、初等科に入学したばかりの子どものように緊張していた。
 「そうだな……」攸人は眉間に皺を寄せる。クレイは猶更肩を縮こまらせて、その審判を待った。
 クレイとしては無難な服装を選んだつもりだ。あまり派手すぎるのは性に合わないし、かといってまさか待機任務ですらない完全な休暇なのに軍服を着ていくというのも変な話だろうし―――。
「俺からすればまだ地味すぎるくらいだぜ」腕と足を組んだ攸人がいつになく真剣な眼差しでクレイを見上げた。立ち上がった攸人は、部屋の中のクローゼットを開け―――。
「もっと腕とかにシルバーとかゴールド巻くとかよ。そういうのどうだ?」
 じゃらじゃらと音を立て、腕に巻くのだろうアクセサリーを引っ張りだす攸人。
「えぇ……派手すぎない? というかこの服に合わなくない?」
「冗談だよ、冗談」
 クローゼットの奥に顔を突っ込んだまま、攸人は丸さを感じさせる声を出した。わざわざそのために今の腕輪を買ったのだろうか? 攸人の私服でそういう派手なものは無かったはずだよな、と思い出し、相変わらずな奴だなぁとクローゼットから身体を引っ張り出した攸人の背を見やった。
「まあ真面目な話良いんじゃないか? 俺は好きだな」
「そうか―――そりゃ良かった」
 腕を腰に当て、いつもの人当たり
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