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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
69話
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粒子砲が掠めていった。明らかにMSの携行火器とは比較にもならない、濁流のような光軸だった。
 息を飲む音がブリッジに響いた。
「―――何をやっている! 管制官、MS部隊の発進を急がせろ! 砲雷長!」
 副艦長のバリトンが激する。復唱する声と共に、ブリッジに俄かに声が飛び交い始めた。
 艦長も諸々の指示や他の艦の艦長と連絡を取りながら、ふと、思う。
 さきほど己が思った些末なことが、よもやきっかけになったのではあるまいな―――そんな迷信まがいな思惟を思考から締め出しながら、艦長は声を張り上げた。
 ※
 彼は、子どものころからなんでも出来た。頭だってよかった。運動だって出来た。気立ても良く人当たりも良い。名家の出であったこともあって品性も良く、かといって年齢相応にやんちゃもしてきた。初めて彼女が出来たのは14歳の時で、その後も両手と両足の指を使っても数えきれないくらいには経験を持ったし、火遊びだって何回もしている。
 羨ましい、と皆が言った。お前はなんでもできて、凄いな、と皆が言った。必要が満たされた、幸福な人生だと言った。
 だが、彼にしてみれば、それが何故凄いことなのかはさっぱり理解不能だった。彼にとって、出来ることが当然なのである。どれだけ難解な問題でも、少し頭を捻れば彼には片手間で何でも出来るのだ。人間は朝起きて空気を吸って欠伸をすることが凄いとは思わない。彼にとって世界事象は全てそのレベルの出来事でしかなかった。
 自己効力感―――己で世界を切り開けるという積極的感覚が全く欠如していた。だから彼にとっての世界とは反射反応以上の行為を必要としない、全く動物的位相の価値しか持っていないものであった。そこに人間的位相の価値は存在しておらず、彼自身人間的生存の価値など持っていなかった。空腹を感じたから食事をし、眠いから眠り、性的快楽を感じたいからセックスする。無味乾燥な快楽、その価値もわからないなにものかだけを享受するだけの非人間的存在。
 いつ、だっただろう。
 秋の黄昏時だったことは覚えている。あいつに会ったのだから、まだ4年も前じゃない。士官学校の、校庭だったはずだ。
 特に価値など無かったが、彼は散歩に出ていた。夕暮れ時の錆びれた風に当たりたかったのかもしれない。
 玄関口から入ろうとして、彼はふと校庭に視線を投げた。
 人口太陽の光は酷くのっぺりしていて無味乾燥だった。それに包まれる世界もきっと無彩色なはずだった。
 校庭をぐるぐる走っている人間が居た。今日は、確か学校全体としては休みだった。
 物好きだな。彼はその時、そんな風な印象しか持っていなかった。世の中には努力を伴わなければ何かを為すことが出来ない人々が居ることは知っているし、そしてそのために足掻く人間が少なからず居ることも知っていた。そして、大抵の人はそ
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