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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
66話
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横目で一瞥したクレイも、そのビニール袋の中の重量を手に取った。
 肌触りからして固いプラスチックの容器は、その軽薄な触り心地に反して腕の筋繊維に確かな負荷をかける重量と熱を持っていた。
 ビニール同士が擦れる耳障りながさがさという音からそれを引っ張り出して、容器の蓋を開けてみる。辛味を伴った濃い臭気が鼻孔にへばりつきながら突き抜け、食道を通り、居の底にじっとりと溜まっていく。
 袋の中のプラのスプーンを右手に持ち、その塊へと突き入れる。初めにどろっとした感触があり、さらにスプーンを奥へと刺していけば、もっと固い感触へと変わる。上部構造とその下部の構造をまとめて掬い上げ、口に入れればその匂い通りの味蕾をざくざくと刺してくるような辛さが舌の上を跳ねた。
 辛さと熱のせいか、特に意味も分からずただ口に運ぶという動作だけでクレイは身体が汗ばむのを感じた。
 「中尉は―――」ぽつりと、隣に座っていた男がそう口にしたのは、クレイが辛さに負けて一端食べるのを止めた時だった。
「中尉は、最後はどうでしたか?」
 口の中の煮えた米を飲み込む。顔色は窺い知れなかったが、その声色は奇妙だった。まるで自分に関係のないような、テレビの話を聞いているような平然さを感じさせた。だが、それは決して素っ気ないというわけではない。むしろその逆、その普段通りの声に、確かな切実さが含まれていた。
 宇宙空間における戦闘の残酷なところは、死んだあとに何も残さないところにある。艦船はともかく、爆散した航空機やMSを回収するのはほぼ不可能といって良い。ましてビーム兵器でコクピットなどを貫かれれば、人間は髪の毛一本残さずこの世から蒸発する。ドッグタグなどつけていてもほとんど機能しないのだ。そんな過酷な戦場にあって、レコードが回収されなければその人間の死に際はほとんど葬られたと言って良い。
 琳霞の機体はまだ回収されていない。畢竟、彼女の最後は喪いのである―――ただ、その撃破された機体と通信を行った別の機体の通信記録を例外にして。だが、どちらにせよ機密レベルの高いクレイの部隊の情報を他部隊、それもジオン共和国の人間は閲覧できないのだ。
 故に、この彼女の部下の男はクレイに語りを期待している―――理解し、クレイは唇を噛んだ。
 戦闘が終わってどれほどだろう―――1月経ったか、どうか。たかだかそれだけの時間の経過で、クレイは彼女の顔がどんなだったか思い出せないようになっていた。声色もなんだか不明瞭だ。
「任務だから、と言っていました」再び、クレイは麻婆豆腐を天上に掲げた米へとスプーンを突き刺した。
「中尉は、俺の任務は―――義務は俺の機体を持ち帰ることだ、だから早く逃げろって。自分の任務はお前を守ることだからって―――」
 そして、死んだ。
 麻婆の辛さは相変わらずで身体中がかっか
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