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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
65話
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の間ほどにある絞りで最低限にし、台座部分のボタンを押せば、どこか神経質そうな白い光がデスクを照らし、瞬間明順応しきれなかった虹彩が多量の光を眼球の中に導き、思わず目を細める。
 背もたれに体重をかけながら、クレイはその分厚いながらも片手で持てるそのなんだか珍妙な本をぱらぱらとめくり始める。大分読み始めたはずなのに一向に読み終わらない本。流石にそうちゃっちゃと読み進められるわけもないか、といつも通りに思いながら、クレイはその本の最初のページを開いた。
 比較的大柄な身体を丸め、食い入るように文字に目を走らせるその読み方で、今までよく視力が落ちなかったものである。MSパイロットに要求される水準を超え、彼の視力は両目とも裸眼で2.0を超えていた。
 どれほど時間が経ったか。かさかさと布の擦れる音が耳朶を打ち、クレイは文字列から顔を離した。
 回転式の椅子をくるりと回し、デスクと反対側に視線をやれば、ちょうど紅い目がこちらを注視していた。
「起きてたの?」
 椅子から立ち上がる。微かにエレアは身動ぎして身体を起こそうとしたが、そうしなかった。代わりに、ふぁあと欠伸をして、眠たそうな顔をした。
 子どもはもう、寝る時間だな―――などと思っていると、エレアは少しだけむくれたような表情をした。
「子どもじゃないもん。わたしだってもう、大人なんだから」
「よくわかったね」
「だって年寄りみたいな顔してるんだもん。すぐ寿命で死んじゃいそうな顔」
 むー、と口を堅く結ぶ。そういう無邪気な仕草があどけないのだが、まぁ、美徳であろう。
 寝転がったままの彼女の隣に腰を下ろす。
 特に交わすべき会話も無い。互いの器質が鳴らす小さな霊魂の音だけが部屋を満たしていく。
「ねぇ」
「なにか」
 疑問に対しての答えは無い。ただその粘着質のその空気感で、何を言わんとしているのかは自然と知れた。
 彼女は素直すぎる。頬が変に緩むのがなんとなく癪で、クレイはエレアの頭をぐしゃぐしゃに掻き毟った。
 きゃっきゃと一頻り騒いだ後、エレアは頭に乗せられた手を取る。
「今度休みが一緒の日があるんだけどさ、暇だったりするかな。街に行こうかなって」
「暇じゃなくても暇にする」
 うん、と肯く彼女は嬉しそうに笑みを浮かべる。
 思えば、エレアとそういう関係になってどれほど経ったか―――その間、彼女と過ごした時間は左程濃かったわけでもない。2人で街に行くなど数か月ぶりだった。
 いくらなんでもそれはどうよ、とは思う。しかも毎回エレアが行こうと言って、クレイはただそれについていくだけというのも非常に不味い。
ここは―――。
「あーそうだな、街もいいんだけどさ」
 「?」エレアが小首を傾げる。
「まぁすぐにってわけじゃないんだけど、どっか遠くに行ってみないか?」

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