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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
63話
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をしながら振り返る―――こんな時間に誰だ、と思うのと、ドアの向こうから声が聞こえてきたのは同時だった。
「コクトー中佐だ。カルナップ大尉はいらっしゃるか?」
 一瞬ぽかんとする。その名前と声はフェニクスには予想外だった。
 慌ててドアの前に向かう。埋め込み式のタッチパネルに触れると、音も無く無機的なドアは横にスライドした。
 ドアの前に佇立していたガスパールは、人当たりの良さそうな顔をして敬礼した。
「夜分にすまないな、大尉」
「いえ、問題はありません」フェニクスも敬礼する。ガスパールが腕を降ろすのに合わせ、フェニクスも額に当てた手を降ろした。
 オペレーション:シャルル・ド・ゴールの際に、通常の機動打撃群とは編成が異なっていたのは一重に茨の園制圧後の当該宙域の長期的な保全のためと言って良い。ニューエドワーズは支援物資を輸送するための中継点となる拠点と定められているわけだが、それ以外にもローテーションを組んで茨の園を制圧する人員が体を休める場としても機能している。人間はそもそも重力下で活動する生物で、無重力での長期的な生活は極めて大きなストレスを齎す。茨の園自体も低酸素・低重力地であるため、体を休めるのには不向きなのだ。そこで、定期的な休憩も兼ねて機動打撃群の艦船が出向いては停泊しているのだ。確かに今はソウリュウとウォースパイトがニューエドワーズで身体を休めている筈だった。
「何分忙しくてな。この時間にしか暇がなかった」
 申し訳なさげに肩を竦める。中佐なのだから大尉でしかないフェニクスは命令されれば無理をせざるを得ないのだが、そういうところは誠実な男なのだ。生真面目で無骨そうな顔が、なんとなく、クレイの姿を想起させた。
「私も夜くらいしか時間がありませんから」
「そうか、お互い忙しい身だな」
 安堵を浮かべたガスパールを執務室に入れる。ガスパールがソファに座るのを端に見ながら、棚からカップとソーサーを取り出し、素早く紅茶を注ぐ。
 わざわざいいのに、と言いつつもカップに口を付ける。紅茶の熱を含んだ息を吐いたガスパールは、満足げにソファの背もたれに身体を預ける。
 「育ちが良いということかな」もう一度紅茶を口に含む。「大尉は紅茶を淹れるのが美味い」
「こんなことばかりが上手になってしまいますよ」苦笑いとともに肩を竦める。ソファに腰掛けたフェニクスも、その濃い琥珀色の液体を飲み込んだ。
「美徳さ。最近は下賤な趣味の人が多すぎる」
 ガスパールは穏やかな表情のままにカップをソーサーに置いた。
 カップに口を付けたまま、伺うようにガスパールの顔を一瞥する。
 エリート主義的、規範的。ガスパールはそういう男だった。ティターンズ時代、フェニクスを懇意にしたのはその出自にあるといってもいい。もちろん実力を伴わない高貴さに目をかけるよ
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