暁 〜小説投稿サイト〜
機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
61話
[1/4]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 UC.0079年、一年戦争当時。
 彼女の父親は地球に出兵して戦死して、母親はどこかで軍の仕事に就いていた。まだ12歳ほどの少女は、産まれて1年経ったばかりの赤子の世話をしていたのだ。
 雪の日だった。あまり裕福でもなく暖房をつけるのももったいなくて、部屋の中でももこもこの防寒着を着ていたのをなんとなく覚えている。
 遠くで音がした。重く響くような音。そして避難勧告が出て、慌てて妹を抱えてどこかのシェルターに向かう最中だった。
 巨人が視界を掠めた。十字架のような刻印を頭部に刻んだ巨人―――MS-09《ドム》と、白亜に染められた気高い騎士―――MS-07B3《グフ》の戦闘。
 そこで、その真っ白い薔薇のような《グフ》の威容に見惚れてしまったのがいけなかった。《グフ》が《ドム》の右腕を切り飛ばし、留めをささんとしたのを呆然と眺めていた時、少女でしかなかった彼女を爆風が襲ったのだ。
 なんの爆破かは、知らない。ただ、その爆破はMSを破壊し得る兵装で、12歳の少女を吹き飛ばすにはあまりある威力だったということだけは明白だった。
 彼女が単に打ち身で済んだのは、奇蹟でしかなかった。しかし、その奇蹟の代償に、腕に抱えていた妹は遠くで生命としての条件を強奪され、ものとなって転がっていた。
 彼女は悲しさを感じなかったし、泣きもしなかった。何かを感じたらしかったが、何を感じたかもよくわからなかった。妹が大事そうに抱えていた熊のぬいぐるみを恐る恐る拾い上げたことは覚えている。
 大丈夫か、と誰かが駆け寄ってきた。金色のメッシュが入った長い黒髪の―――少女、だった。
 20代になったかならないかほどの、綺麗な女の人だった。12歳の少女の小さな身体を抱きしめる女性の顔は、今でも覚えている。
 助けられなかった命があることに顔を歪め、目の前の小さな命を守れたことの安堵に微笑を浮かべる。どうしてそんな顔を浮かべるのだろう。少女には全くそれがわからなかった。ただ、少女の身体を握りしめる彼女の腕の力は酷く強くて、場違いにも痛いなぁ、と思っただけだった。
 行こう、とその黒髪の女性が言った。死んだ妹の亡骸に構っている暇がないことを合理的に判断して、彼女はただ首を縦に振った。
 サーベル同士がぶつかり合い、鼻を突くようなオゾン臭が立ち込めていた。
 女性の腕の中、彼女が見た光景は白い《グフ》と《ゲルググ》のような機体が決死の斬りあいをしている姿だった。
 一年戦争が終結したのはそれからすぐだ。母親も死亡したことを知り、彼女は別なサイドの血縁者を頼ることにした。別なサイドへ行く連絡船に乗っている時、彼女の乗る連絡船はジオンの残党に襲われて、彼女はまるで中世の賊の獲物さながらに略奪された。
 彼女の運命を大きく変えたのは、彼女のMSの操縦技能が卓絶していた点だ
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ