55話
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異様だった。
無線からは部下の狂ったような絶叫が迸り、その部下が相対している敵もまたぴくりとも動かずに機能不全に陥っていた。装甲の継ぎ目からは変わらずに蒼い炎が横溢し、黒い宇宙空間を侵食しているように見えた。
部下がプルートに必死に呼びかける声を鼓膜に響かせながら、マクスウェルはこの眼前の事態を好機と捉えてしまう己の冷然としすぎた合理的思考に反吐が出る思いを味わった。
目標はあの《ゼータプラス》を―――正確にはあの《ゼータプラス》のパイロットを捕獲することである。気を急いだ間抜けのせいで以前は失敗し、そして今の戦闘に至るというわけだ。
紙一重の戦いだった。一瞬でも判断が違っていれば、あの《ゼータプラス》の凶刃の餌食になっていた。だが、今はその敵も沈黙している。これを好機と捉えずなんというのか。それもまた、事実なのである。
(大尉、あの機体を捕獲するなら今では?)
部下の1人もまた同じことを考えていたらしい―――通信ウィンドウに映った男の顔は、眉間に皺を寄せて苦渋に満ち満ちていた。
「あぁ。05、06は03を見ていてくれ。04、バックアップを」
マクスウェルは務めて平然と口にした。了解の応答を聞き、フットペダルを踏み込む。推進剤の残量は心許ない。予定ポイントに隠れている母艦まで果たして持つかどうか―――味方機の機体ステータスに視線をやりかけた時だった。
不意に攻撃警報音が鳴り響き、身構えるのもつかの間突き上げるようにしたメガ粒子の光軸が機体を掠めた。
首を回し、オールビューモニター越しに下へと視線を移した。
接近警報とともにもう1射。明らかに敵意的でないそのビームが《リゲルグ》と漆黒の《ゼータプラス》の間を駆け抜ける。
灰色の《ゼータプラス》が巨大なビームランチャーを掲げ、MS形態のまま漆黒の《ゼータプラス》を庇うように立ちふさがる。
マクスウェルは息を飲んだ。その《ゼータプラス》が左腕に抱える物体。四肢を両断され、切断面から弱弱しいスパークを瞬かせた《リゲルグ》の遺骸だった。
まさか―――脳裏に立ち込めたどす黒い黒雲を払うようにディスプレイに通信ウィンドウが立ち上がる。
連邦軍のノーマルスーツ。知らない顔だった。
(こちらは地球連邦軍ニューエドワーズ基地所属のフェニクス・カルナップだ。貴官らと取引したい)
言いながら、画面の中で灰色の《ゼータプラス》がビームランチャーを降ろす。
フェニクス―――どこかで聞いた名前だ、と思った。わざわざネオ・ジオンの無線コードに合わせてきたことに眉を顰めながら、マクスウェルも応えた。
「こちらはネオ・ジオン軍のマクスウェル・ボードマン大尉だ。地球連邦政府はテロリストと取引はしないのではなかったか?」
(そういう様式で語ることにいつまでも安寧を感じているから
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