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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
51話
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き上げるように心臓が脈打ち脳みそに血流を送り込む。
 全身にミサイルを積み込んだ《ズサ》はそれだけで脅威だ。その対応に《FAZZ》が手間取った隙に《リゲルグ》2機が急激に肉迫する。ブースターユニットを装備したままの《リゲルグ》がシールド裏から対になったビームサーベルを発振させた。
 片方だけに巨大な蟹の鋏をもたげる様は、望潮だった。浜辺に居る小さな甲殻類との差異を挙げれば、片や数センチほどの無害な鋏に対して、《リゲルグ》のその得物は数万度に達するということだ。触れれば何物も両断する刃、触れれば一瞬で蒸発する、刃―――。
 死。頭の中の有機を一色に塗りつぶす闇に悲鳴をあげる。
 けたましくなる警報音、騒ぎ立てる心臓音。次弾の装填までの残り時間は限りなく長く、次の瞬間には―――。
 《リゲルグ》が右腕を振りぬく寸前、間に入るようにした《ガンダムMk-V》がハイパービームサーベルを上段から振り下ろす。唾ぜり合いの瞬間に灰色の《ハイザック》がビームライフルを撃ち放ち、回避軌道をとった《リゲルグ》目掛けてブレードアンテナを掲げた《ハイザック》がサーベルで切りかかる。シールドで防がれるのも構わず、スラスターを全開にした《ハイザック》が推力の力も借りて《リゲルグ》を突き飛ばした。
(07と共に後退しろ! あの敵は俺たちで殺る!)
「隊長!?」
(早くしろ! お前の装備で敵う相手じゃない!)
 通信ウィンドウに映ったクセノフォンの顔はいつになく険しい―――その意味を理解し、クレイは背筋が凍えるのを今更に感じた。
 クレイがすぐに錯乱しなかったのは、一重に義務感が働いたからだった。強敵ならそれこそ数が必要と判断しかけたクレイは、しかしすぐにクセノフォンの声の意味するところの内実を理解した。
 それでも、ただ逃げるだけなんて―――歯を食いしばり、口を開けかけたのに合わせるようにして琳霞のウィンドウがディスプレイにフォーカスされた。
(いいから早く行け! あんたのやらなきゃいけないことはここでウダウダしてること!?)
「しかし―――!」
(あんたは連邦の軍人で、その玩具を死んでも守るのが任務なんでしょ! お頭で理解できたなら煩わせるな!)
 隣で弾倉(マガジン)を破棄し、予備弾倉(サブマグ)を装填した灰白色の《ハイザック》の単眼がぎょろりと睨みつける。
「中尉は!?」
(あたしがしなきゃいけないことはあんたを死なないようにすること! ここで敵を食い止めるってこと―――それがあたしの任務。アンタたちのとこには絶対に行かさないさ)
 操縦桿が軋むほどに握る。悔しさか、あるいは恐怖か―――それを吟味している暇はミリほどの存在も許されていなかった。
 ジゼルの鋭い声が耳朶を打つ。
 機体を即座に反転。通信ウィンドウの向こうで、彼女はただ不敵な笑み
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