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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
49話
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 物理的刺激とは異なった刺激が視神経を刺激する。淀んだ時間がその記憶を現在に把持し続けていた。
 ぱちぱちと爆ぜる木の欠伸。光に追いやられ、明るく照らされた粗末な闇夜。
 自分と同じ栗色の髪をした男の顔が思い浮かんだ。
 垂れさがった眉に、必要以上に外見に気を配ろうという感じには見えない長く伸びた髪の毛。顔立ちもパッとしないし、一目見て心奪われるような存在ではなかった。
 でもなんなのだろう―――あの男と、銀髪の少女が仲睦まじげに並んで座っている様を見るのはざわざわした。端的に言って、不快だった。
 プルートは、考えるのを止めることにした。今は些事に囚われている時ではない、理性で断じ、16歳の少女は外在化した形而上的神経を宇宙へと引き伸ばしていく。
 ダークブルーの《ドーベン・ウルフ》が身動ぎする。その右手に保持した巨大なビームライフルをゆっくりと構える。ビームライフルとして機能させる時とは異なるグリップを握り、抱えるようにして胸部のメガ粒子砲に接続。ビームライフルの銃身が展開し、18mのMSほどの、巨大な異形の砲台と化す。
 否―――元々ビームライフルという機能が副次的なのだ。《ドーベン・ウルフ》は敵の撃滅を専心する孤高の凶狼。その悪逆たる闘争本能の中枢、プルート・シュティルナーという生体ユニットに内蔵された生きたセンサーが、遥か遠方に存在するであろう獲物を、その知覚野に鮮やかに抽出した。
 特に戦史に詳しくないプルートは、その敵の名がアンティータム改級という名であることなど露ほども知らなかった。ただ、補給艦に似ているという理由で狙いをつけたにすぎない。だが何も問題はない。狩りをする肉食獣が、眼前の獲物を肉の塊としか認識せずとも仕留めるのと同じように―――プルート・シュティルナーも、《ドーベン・ウルフ》のメガランチャーの有効射程距離の範囲内に獲物が入ったのを、それほど深く考えなかった。
 プルートは、ヘルメットを、被った。
 全身に血を巡らせた黒狼がぎらと単眼を輝かせる。随伴の《ザクV》も順調に起動したのをディスプレイにて確認したプルートは、コクピットの中が温かくなるのも待たずに、メガランチャーの黒々とした口を掲げた。
 メガランチャーを腹部のビーム砲に接続―――完了、問題はない。
 プルートは殺戮の執行を妨げるものが何もないことを確認し、己の狙いが、過たずあの箱を繋げたようなとんまを惨殺するという認識を確かにすると、重たいトリガーを、くいっと引いた。
 解放された灼熱の閃光がバレル内の加速・収束リングを駆け抜け、咆哮を上げた大出力の光が防眩フィルターでも防ぎきれないほどに膨れ上がった。
 亜光速の暴虐的な閃光が屹立する。進路上の全てを光の内に食らい尽くした灼熱の濁流は、突き上げる形でアンティータム改級補助空母の胴体を貫いた。秒
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