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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
39話
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い祖国への誹謗を如何に受け止めたであろう? 地球のリゾートへ赴いたら石を投げられたと語るサイド3出身のアニメ声優の自伝は、所謂二次元に安住の地を見出した人種にとって有名な話である。同じジオンの名を有しているというだけで、謂れのない差別を受けてきたサイド3。その差別の理由は、一年戦争の当事者であるにも関わらず戦後一番に復興を遂げたことへの妬みかもしれない。そうした妬みや嫉妬の感情を否定はしない―――むしろそれは時に大事を成す大きな原動力ともなる。思想の始まりは何も気高い精神ばかりというだけではないであろう。だが、その暗い情念によって他者に危害を加えて良いということにはなり得ない。その情念が現実に鋭利な刃を伴って鎌首をもたげ、誰かに血を見せたその瞬間に糾弾されなければならないはずだ。
 琳霞はそうした刃を、きっと言論の内に感じていたのだろう。あるいは実際に地球へ行ったか。どちらにせよ、彼女はきっと世の中の排他に対して行き場のない憤りをため込んでいたのだ。
「なれましたか」
 どこか固くなった声になった。居所の悪さを感じたクレイは、琳霞と同じように草叢に背を預けた。固い草が露出した首元をちくちくと刺した。
 彼女は、しばし何も言わなかった。クレイは、そうして悟った。
 だから、彼女は教導隊を目指したのか―――身体に鋭い痛みが奔った。植物内に含まれる非結晶含水珪酸体、プラント・オパールが原因だろう。
「どっかの誰かさんに蹴落とされてダメだった」
 胸が軋んむ。
 教導隊を選抜する試験では、特に個人技能が重視される。そもそも部隊間連携などは、教導隊を目指すならばできて当然の技能で前提条件だ。
 こういう時、何を言えばいいのだろう? 乏しいクレイのコミュニケーション能力では、良い回答は全くの不明だった。
「私に勝つんだからどんな奴だと思えばすっごく冷淡で会話すらしないような奴だった。その癖士官学校にまだ在籍してるような奴よ―――ムカついてぶん殴ってやろうと思ったわ」
 ますますクレイは委縮したが、琳霞の声色には剣呑さは無かった。
 4年後―――隣でぼそりと声がした。
 4年後―――クレイはその意味を理解できなかった。
「4年後の教導隊員選抜試験の時そいつに言うのが目標なの。ざまぁみろ、お前が見下した奴はお前と同じ場所に居るんだぞ―――ってね。それが私の目標で、私のやらなきゃいけない責務って奴」
 にやりと琳霞が鋭い笑みを浮かべる。虚を突かれたように見守ったクレイは、彼女から視線を離して、もう一度空を見上げた。
「その人、人と話すのが苦手なんですよ」
 琳霞は胡乱気な視線でクレイを見た。
「多分、緊張してたんですよ―――自分がこんなことできるかなって。そして実際やってみたら上手くできて―――でも周りはほとんど見知らぬ人で、しかも反感を持
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