38話
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赤かった。
ノーマルスーツに身を包んだクレイは、エイジャックスの格納庫に居座る愛機から奇妙な情念を受け取っていた。
自分の機体は黒だった。そう、黒なのだ。宇宙に溶け込むような黒曜石をそのまま神像に研磨したような―――そんな美しさを湛えた愛機の色は、一転して派手なカーニバルの置物と化していた。
赤かった。
マダーレッドその他赤色に黒の配色は目立つどころの話ではない。赤い彗星、真紅の稲妻―――赤をパーソナルカラーとした綺羅星の如きパイロットたちの名もちらつく。その癖、赤い色で構成された奇妙な迷彩が施されているのはなんなのだろう?
「よお、気に入ったか?」
ノーマルスーツを装備したヴィセンテがヘルメットの奥で誇らしげな笑みを浮かべていた。
どう反応してよいのやら。「えぇ、まぁ……」と返事にもなっているかわからない相槌を打つと、腰のあたりをヴィセンテが軽く叩いた。
「しっかりやれよ? サナリィの秀才になにかあったら政府もカンカンだからな」
脅すように言いながらも他人事のように笑うヴィセンテに頷き返したクレイはヘルメットを被ると、地面を蹴り上げた。1G下では85kg以上あるクレイも、重さを感じさせないようにふわりと浮きあがる。無重力下での移動用のワイヤーを射出し、先端のマグネットががちりと《ガンダムMk-V》を噛むのを確認すると、手許のボタンを押し込む。ワイヤーが巻き取られるに任せてクレイの身体が牽引され、解放されたコクピットハッチに手をかける。足からコクピットの中に滑り込み、全天周囲モニターの中に孤島のように佇むリニアシートに取りつくと、データ収集用の機材を乗せるために作られた後部座席にいた人と目があった。
「よろしくお願いします」
ぺこりと丁寧にお辞儀するモニカ・アッカーソンはすこし緊張気味のようだった。こちらこそ、とクレイもぎこちなく微笑を返すと、シートに腰を落とす。ノーマルスーツの腰部に据えられたマグネットとリニアシートのマグネットが磁力でしっかり接合されるのを確認し、その他機体のステータスチェックなどを素早くこなしたクレイは、しばし違和感を覚えた。
今日は武装のチェックがないのだ。もちろんその理由をクレイは十分知っており、その『代わり』となる作業は背後でモニカがこなしているはずである。
「できましたか?」
特に振り返るでもなく無線で伺う。しばし無線越しに小さく唸る声が耳をおっかなびっくり触った後、できましたと無線と肉声の声が同時に聞こえた。
複座。士官学校時代の教官を思い出しながら、了解の声を返した。
モニカが調整したデータが多目的ディスプレイに映される。
何度か試験は行ったが、実際に使用するのはもちろん初めてだ。理屈はわかるが、はたして実証可能なものか―――それは神のみぞ、もとい物理法則のみぞ知
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