37話
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海の中、胎の中。
どちらも違和感があるな、と思った。周りが冷たいのだ。もちろん物理的温度は胎の中と大きな差異があるわけではないのだが、確かに冷たさが未だ未熟な肌を素っ気なく包むのだ。そこは愛情のないただ物理的眼差しだけが注がれるだけの一面的資料的な内世界でしかない。
映像の中で白い何かが蠢く。未だ判然としないガラスの向こうは、それにとっては絶対的 な拒絶が存在するだけの外界が延長していた。
夢だ―――分節不可能な意識の中、漠然とした気分が湧き上がってくる。
これは、誰の夢なのだろう。夢とは突拍子のないもの―――実体験のないはずのものであるが、往々にして夢とは実体験のパッチワークキルトか無意識の願望であるという。
願望―――これが? それはあまり明確な回答のようには思えない。じゃあ継ぎ接ぎの産物かと言われればそれも疑問であり―――。
これは、自分の夢――――――[]ではない。あの子の、夢、な、の、か―――?
※
甘くて温かな原体験に抱かれ、クレイの自覚は半ば暴力的に揺り動かされた。
キャミソールのブラカップ越しに感じるエストロゲンとプロゲステロンが編み出した芸術的豊饒と、鼻孔の奥から抜けて視床下部を悪戯っぽく刺激する彼女のどろっとした体臭。頭に置かれた彼女の手が時折気まぐれのように動き、むず痒さと心地よさの有機体が情念の内を覆っていく。
底の知れない安堵感。不気味とすら感じるほどのこの異様な思考停止、全身を浸す母胎回帰願望。かつてクレイはこれを感じたはずで、にもかかわらずクレイは寂しさを伴ったこ被非愛玩情念に当惑した。何故ならそれがクレイにとって分節不可能である以上に、強力な抑制をもって押し寄せたからである。
彼女にしがみつくようにして触れる自身の手にもっと力を入れたかった。この分離してしまったモナドの存在者的孤独から逃避したかった。エレアともっとセックスがしたかった。1つになりたかった。ホットパンツの生地越しに感じる臀部の柔らかさを意識の端で捉えつつも、クレイは微かに顔を上げた。
規則正しく聞き心地の良い穏やかな寝息を囁く―――こんなに心地よさそうに寝ているのをわざわざそんなことのために起こすのは良くないだろう。恐らくそう判断すべきだと思った欲求不満の男は、存在の不安さから逃れるためにエレアの手からゆっくりと抜け出すことにした。後頭部に添えられた彼女の手を静かに退け、音も立てないようにベッドから抜け出した。
どこか不穏な情念の到来に身震いしたクレイは、それでもそのパシオーに抗してオフィスチェアに勢いよく腰を下ろした。金属が軋み、キャスターのどこかが破損する甲高い音がしたことにもクレイは気づかずに椅子をくるりと回して正面にデスクを構える。引き出しから4cmほどもある
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