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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
34話
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すが、とにかく人は何かを食べたり飲んだりするわけでしょう。その摂取したものってどこに行くんでしょうか?」
 予想していた話題と異なっていたのだろう、きょとんとしながらも少し考えた後、
「そのまんまだけど……自分の身体になる、でいいのかな?」
「ええ、もちろんそうですね。そのまま排出されるものもありますけど。そして取り込まれた食べ物は形を変えて血肉となるんですよ、既存の自分の身体の部分と置き換わる形で!これはとても興味深いことだと思いませんか?」
 知らず声が大きくなったことを詫びながらも、クレイは自分が楽しい気分であることをありありと味わっていることを理解した。
「あれか、子どもの頃に自分の身体を構成していたものが全て置き換わっているのに自分という意識が何故成立するのか―――とかと関わる話?」
「そうですそうです。自意識の維持についても重要なんですが、今はそれは置いておきましょう―――人間は自然と言う大きなシステムの中で発現したある様態、「淀み」なんです。特権的な絶対自我などではない」
 エルシーは口の端から白い液体を垂れ流してもごもごと口を動かしていた。懐疑的に結ばれた眉から、エルシーは肯定的じゃないのかなと思った。もちろん、構わない話である。同意を求めて話を始めたわけではないからだ―――もしかしたら、眠さを我慢しているのかもしれない。
 退屈な話は最高のララバイである。それならそれでもいい、とクレイは話を続けることにした。
「人間の個性を考えるなら個人だけで考えてはいけないのです。なぜなら人間は決して単独で生きているのではなく、自然と言うシステムとの相互交換の流れの中に存在しているから。あるいはフーコーの権力の話を持ち出してもいいですが、まぁ僕は専門ではありませんからいいでしょう。とにかく、ニュータイプという特性もまた、単に『普通の人』とは異なる特性を持っているからと言って超人でもなく、亜人でもなく―――それこそ我々が生きる世界の同じ隣人という視点を失ってはいけない、という話です。ニュータイプは例えば怒りっぽいとか運動が好きとかそういう個性とあまり違いないんだという話もありましたかね。ニュータイプは我々とさほど乖離した人間でないぞ、という視点は興味深いと思ったんです」
 どう思います、とエルシーの方を見たクレイは、複雑な感情が浸透した溜息を吐いた。
 エレアの寝息とは異なる寝息が蝸牛のリンパ液を揺り籠のように揺らした。口の端から白濁液をたらしながら、エルシーはすっかり眠りに柔らかく抱かれていた。
 結局ララバイになったわけだ。少しだけ悲しさを覚えながら、その悲しさなど意味のない感傷だと切り捨てた。人の興味はそれこそ多種多様だ。その人との違いこそ人の存在者としての素晴らしさに違いないのだから。むしろ、彼女はクレイの惨めさを汲んでわざ
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