33話
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険しくする。どうやら、知らず注視していたらしい。首を横に振って否定すると、エルシーも特に留意するでもなく虚脱して空に視線を放り投げてしまった。
やはり、どう考えても人選が偏りすぎだった。エレアは見た目に反して軍属なだけあって割と肉体労働が出来る方だが―――。こんなことならしっかり寝ておけば良かった、と益のない後悔をした。そもそもクレイはこんなボートレースに出る予定は無かったのだから後悔もクソもないのだが―――詮無いこととはわかっても悔いてしまう人種なのである。
とりとめも無く変化の乏しい海を眺めていると、その中でぽつねんと何か点のようなものが現れた。徐々に大きくなる黒点がボートだ、と気づいたのは、ゴムボートの中央に仁王立ちするジゼルの姿を見たからだった。水飛沫をまき散らしながら海上を驀進していく様はもはやモーターボートと大して変りなかった。
確か副隊長が一緒だったな、クレイは思った。もう片方のサナリィの整備士も、中々逞しい筋肉達磨だったのは覚えている。それにしても限度があるだろとは思ったが―――クレイは静かに視線を逸らした。
何も悪いことばかりじゃない筈である。改めて、ばれないようにエルシーに視線をやる。
エレアとは正反対というのがクレイの評価だ。出るとこ出ているエレアに比べれば、エルシーは年と体格相応にスレンダーだった。そうして、その細い身体を包むエナメルブラックの地球連邦軍の競泳水着は、肩甲骨と肩をX字に結合されているだけと背中の露出こそ多いが前はほとんど黒一色だった。
エナメル質の無機的な黒は、なるほど機能性を追求したプラグマティスティックな俊麗さがあった。
「なぁ、クレイ?」
「なんでしょう?」
思わずガン見していたことを気取られないように平静を装いながら顔を上げると、エルシーはまだ空を見上げていた。
上、と彼女が指さすのにつられ、3人揃ってプレーリードッグのように空を仰ぎ見た。
ぽつりと冷たい水滴が頬を伝った。
「―――雨?」
空はまだ明るかったが、いつの間にか薄く広がった灰白色の雲が空に沈殿していた。
薄暗がりがゴムボートへと堕ちていく―――。
「今日は晴れじゃなかった?」
顔を上へ向けたままエルシーが言う。
「いや、こういう熱帯雨林型のコロニーではなるべく地球の自然状態に近づけるために予定されている天気予報とは違うパターンでスコールが来ると聞いたことがあるけど―――」
思わず2人と顔を見合わせた。
熱帯雨林気候のスコールは知識上でしか知らない―――が、士官学校時代に映像で見たことはあった。豪雨を伴う急激な烈風に煽られれば、軍用でもないゴムボートなど一たまりもない。
さわさわと冷たい風が前髪を無思慮に撫でつける。
背後を振り返る。出発地はもう大分遠くに霞んでいた。
「あれ
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