31話
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「海だ……」
誰かの呟きが耳朶を打った。
煌めく―――というよりぎらつく熱射の太陽の光に肌が焼かれる感触など、眼前に広がる広大な水たまりの前では些末なことでしかなかった。
リゾート用のコテージの前に広がる白い砂浜に、碧く広がるマリンブルーの海。海を眺望すれば、点在する小さな島には青々とした木々が茂っている。
クレイ・ハイデガーはコロニー育ちの人間だった。そうして、海洋コロニーは訪れたことがない―――つまり、海という存在者を五感で感じたのはこれが初めてだった。精々が知識の上で知っていたにすぎない。声こそ出さなかったが、砂浜から望む巨大な水塊には絶句するしかなかった。でけぇ水たまりである。
「見ろよ。空まで海だぜ」
ヴィセンテが空を仰ぎ、目を白黒させる。つられて空を見上げてみれば、薄く張った白い雲の向こうは青かった。コロニーでは、空の向こうには街があるのが常識である。あるいは、地球の大地から眺める空はこのようであるかもしれない―――ところどころ島があるのには目を伏せよう。
「っしゃあ! これから目一杯リゾートを満喫しようぜ!」
威勢よくヴィルケイは吠えたヴィルケイは、そのまま視界一面に広がるヴィヴィットカラーの海の中へと飛び込んでいった―――。
(ってなるだろフツー!?)
ヘッドセットの向こうからがなり立てる声が鼓膜を叩く。通信ウィンドウの向こうでは、珍しく顔を険しくしたヴィルケイが喚いていた。
「しょうがないでしょう、そもそも主目的は耐環境試験なわけですから……」
呆れながらも眉を下げたクレイは、まぁそうなるよな、と全天周囲モニターに映る下界に視線を移した。
サイド3への遠征は、そもそも教導だけが目的ではない。サイド4跡地―――というか跡宙域?―――での新生サイド4建設計画に先んじ、当該宙域に残された旧サイド5コロニー群の残骸を占拠する所謂宙賊の討伐任務に向けての前準備という意味合いもある。そして、リゾンテでの《リゼル》及びN-B.R.Dの耐環境任務もまた、そうした目的の中の1つだった。現在こそ観光コロニーということで民間に開放されているが、元々リゾンテは軍用のコロニーだ。未だ現存する軍事施設群を有効活用し、未だデータの蓄積に勤しむ《リゼル》とN-B.R.Dの試験を実施する―――と、連邦上層部には通達してある。実際は教導開けの休暇でしかないからこそ、ヴィルケイの憤慨も無暗なものだとは理解しなかった。そもそも耐環境試験など、ハワイでもやればいいのである。それに耐環境試験といっても、未解体の大仰なベースの上で、稼働状態で何もせず棒立ちしているだけというのだから苦行だった。
(わかるか、リゾートだぞリゾート!? この満天の青い空の下、ビーチとオーシャンビューといや、あとはなんだ?)
「―――さぁ?」
(水着だろう
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