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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
27話
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とも思う。取りあえず、揚げ芋を口に投げ入れた。ちょっとしょっぱすぎるなぁと思いつつ、汗をかいたグラスを煽る―――中身は何のアルコールなんだろうか。自分の左手に持ったグラスを眺めたが、濁った液体の名称が何なのかはよくわからなかった。まぁ、うまけりゃいいや、と再びグラスに口をつけた。
「あいつ、あんまりみんなで酒飲んだりってのが得意じゃないですから」
「人間色々だからなぁ。うーん」
 何事か思案顔のヴィルケイ。と、エレアがジゼルの袖を軽く引っ張った。
「なぁに?」
「えっと、ちょっと……」
 困ったような照れたような顔をしたエレアが視線を泳がせる。
「頼みがあって―――」
                   ※
 小気味良い音が耳朶を打つ。
 エンターキーを押した小指の疲労感を感じながら、クレイは大きく伸びをし、だらしなく欠伸をした。目の前にあるのは公用のパソコンではなく、専用のキーボードに繋がれた私用のタブレット端末であり、その液晶画面には日頃使い慣れない言語―――日本語の群れが犇めいていた。連邦政府の公用語である英語と母親の母国語だったドイツ語は西ゲルマン語に分類される言葉で比較的共通性があるが、日本語は共通の起源をもつ言語の無い言語故に、他と共通する部分の少ない言語なのだ。実際自分が訳した文章を読んでいると、漢字だのカタカナだのひらがなだのが混在していて混沌と言うほかないように思える。よくもまぁこんなしち面倒くさい言葉を使って話すものだと呆れるやら感心するやらだが、そんな言語に奇妙な興味を覚えるのも事実だった。
 だが、興味があるからといってそう長く訳するのも堪える話だった。机に広げられた和独辞典とドイツ語の哲学用語辞典、日本語の辞典、そして日本語の哲学用語辞典を順々に閉じると脱力と共に背もたれに身体を預けた。ドイツ語と英語と日本語を行ったり来たりしていたせいで頭が漠としている。取りあえず今日はここまでだろう、とのそのそと立ち上がりかけると、ドアをノックする軽い音が部屋を木霊した。
「はいはい、だぁれ?」
 大きく伸びをして、冗談半分千鳥足でドアの傍まで寄り、タッチパネルを2、3操作し、音も無くドアがスライドし―――。
「捗ってるか?」
 長い黒髪が目に入る。琥珀の眼差しがクレイを真正面に見返した。
「た、大尉? どうして―――」
 慌てて背筋を正して敬礼しようとすると、フェニクスが素振りでそれを制した。
「私も少し暇になったから飲みにでも行こうと思ったんだがな。一人で飲むのもなんだし。大丈夫か?」
「ええ、いいですよ。丁度今一区切りついたところですから」
 その前に、とロッカーからジャケットを取り出し、タブレットの右上にある電源のスイッチを押し込む。画面が暗くなるのも待たずにキーボード兼カバーを画面に被せ、デスク
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