24話
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サイド3。
太陽系惑星でも生命の豊かさに満ちた星からもっとも遠くに存在するコロニー群。
宇宙世紀0079年を、平凡な時代から歴史の濃密点にせしめた遠方の地。かつての『一年戦争』の苗床となったコロニー、と言えば、人々が抱く印象は決して快いものではあるまい。だが、サイド3と不のイメージを安易にイコールで結びつけるのは間違いとは言えないが、正しいとも言えない。仮にそうした関係のみで語る者がいるなら、宇宙に全く興味のないコチコチのアースノイドだけであろう。そうして、神裂攸人はコチコチのアースノイドでもなければ子どものころはサイド3にも訪れたことがある。それ故、背後に聞こえる酒飲みどもの賑やかさに、今更に目を丸くすることもなかった。
サイド3の首都ズムシティの一画に佇むとある酒屋、一人カウンターに座った攸人は、ガラスのビアジャッキに並々と注がれた黒ビールを呷る。極東日本で作られるビールに比べてコクのある口当たりには馴染がないが、やはりサイド3に来たら黒ビールと相場は決まっている。既に3杯目のアルコールを腹の中に納め、ソーセージをつまみにしながら、攸人はカウンターに置いた雑誌を静かに見とめた。
何回とページを繰ったせいですり切れた表紙は、年季を感じさせる。次々に新しい情報を乗せ、目まぐるしく人々の前を過ぎ去っていくのが雑誌というメディアの特質だとしたら、刊行から2年経ってなお 瑞々しく攸人の手許にあるものとして在るこの雑誌は、酷く奇特な存在だった。
ぺらぺらとページを捲る。この動作を何度しただろうか―――商品としての雑誌を捲る倦怠な動作とは意を殊にする。神裂攸人にとって、この雑誌を捲るという動作は日常の世界においてなお、埋没することなく際立っているのだ。そうして、目的のページに辿りつく。それだけで前頭葉が身震いする。手先が行き場を失う。眼球の中に光が飛び散る―――。
咽喉が乾く。潤すために、巨大なジョッキに一杯に満たされた黒い液体を流し込んだ。
「おねーさん。もー一杯くださいな」
「はいは〜い」
カウンターの向こうにいた店員に言うと、にこやかな笑みとともにジョッキにアルコールを注ぎ、素早く攸人の前に差し出した。礼と共に受け取る―――と、その店員がカウンターに肘をついてぐいと顔を寄せた。
「ねぇ、貴方ここらへんの人じゃないでしょ? 観光?」
ヨーロッパ系だがオリエンタルな容姿。勝気な雰囲気。顔は上玉ではない―――が、悪くない。そばかすが無邪気そうだな、と”品定め”し、「わかります?」と笑みを返した。
「ここって見知った顔しかこないからね」
あそことか、と彼女が顎をしゃくる。つられて見る―――店のフロアの一画に、バカ騒ぎする一団があった。軍服に身を包んでいるところを見ると、国防軍の連中だろう。
「軍の事情には詳しい?」
「ん
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