22話
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リィと連邦軍との合同プロジェクトの運用に転用したわけである。なにはともあれ、居住性という点は最高だ。クレイにとって、初の教導任務になるサイド3への遠征に際して、余計な疲労をせずに宙間旅行ができるのはありがたい。それでも、水を碌に使えないというのは中々に辛いものがあるのだが。当たり前だが、真空が支配する宇宙での物資の補給は死活問題だ。水の使用制限については、海上艦のそれよりも過酷だった。
嫌に目が覚めている。でも結局、何もすることがないと理解して、クレイはいつも通りに思索の旅に耽ることにした。遠征ということで、私物は許可される範囲で持ち込んでいる。アヤネから貰った大量の本から選りすぐった数冊のうちのどれかでも読もう―――。
窓辺から振り返り、さぁ本でも読もうと思ってから、つと頭の中が白くなった。どこに本を置いたのだったか。バッグに入れて、どこかに置いたのは覚えている。どこだったか。ニューエドワーズの自室と比べてもなお何もない部屋だから大して迷いもしないだろう。かといって電気はつけられないし。這っていればそのうち見つけられるかと思って地べたに四つん這いになったところで思い出した。そうだ、ベッドの下だ。
結局這ってベッドの下まで行って、ハンドバッグの感触を確かめると、バッグの中をまさぐる。一番分厚い本に手をかけ、本の角っこを摘まむ。そのままバッグの中から引き抜き、申し訳程度に備え付けられたテーブルへ向かおうと立ち上がりかけ―――。
エレアの声がまた、耳朶を打った。この時は特に深刻には捉えず、何と言ったのかな? とちょっとした興味で耳を澄ませた。
「―――たくない」
微かに聞こえた声は、そんな音だった。
「たくない」? どんな意味だろう。何か行為をしたくない、と言っているうちの最後の部分だけが聞こえたのだろうか。そう例えば―――?
死にたくない、とか―――。
まさか。だとしたら安眠しているのは説明がつくまい。食べたくない、とかのほうがまだマシだ。鱈腹食べ物を腹に収めるエレアの姿を想像するのは難しくない。小柄な割に大食漢なのだ。あるいは山盛りのピーマンでも無理やり食べているのも悪くないな―――。
立ち上がり、特に頓着することも無くチェアに腰掛けた。
読書用の小さい電灯をつける。暖色の小さな光はぺらぺらと開いたページに堕ちて、ロゴスを露わにしていた。
背を丸めて食い入るように、エクリチュールの海へと没入していった。
幾何学の精神と繊細の精神について―――。
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