21話
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の前に広がる。
未処理の廃鉱石が堆積し、山のように聳える荒々しくも脆い鉱山。こうしてできた人工の山は、パラオでは珍しくない。資源としては低品質の鉱物しか取れえなくなって以来、行く当ての無くなった鉱物はこうして打ち捨てられていく。機能しなくなって以来大分経とうにも関わらず、おぼろげな光を放つ注意灯を頼りに覚束ない足場をすいすい上っていくマリーダに続きエイリィもえっちらおっちらと山を登っていく。
ふと、彼女が立ち止まり、彼女が振り返る。
穴、だった。
歪に穿たれた穴は、一目で採掘のためのそれとは異なることを見て取った。コンクリートの補強すらされておらず、ぽっかり空いた空無の先にはただ黒い色が染まっているばかりだ。
マリーダが中に入る。一瞬、穿たれた穴のどこか素っ気ない外見に気後れを覚えながら、エイリィもマリーダの後塵に続いた。
洞窟、というだけあって、中は音が少ない。静かに吹き抜ける腐敗した風が、音を外に引き摺って行くようだ。
緩やかに下る道を20mほども歩いたであろうか。
さっと、逢魔の陽光が差し込んだ。
細い通路の先、ぽっかり空いたがらんどうに溜まる柔らかな丸い光。虫食いのようにぼろぼろの石柱が整然と並び、既に“手元にあるもの”としての性格を失い、人から隔てられた長椅子が列を作る。縦長の洞窟の奥には、椅子と同じように時代から捨象された祭壇が厳かに立ち聳え、色も褪せて微かに赤さを窺い知れる絨毯がかぶせられていた。
その最奥。聖書を物語るためでもなく、体裁を整えるために壁にはめ込まれたステンドグラスからそそぐ人為の光を受けて光る“贖いの証”に、エイリィは自然と息を飲んだ。
十字架に磔にされた聖人のペルソナは、長い年月を経てその容貌は苦悶にも安らぎにも取れない様へと変わり果てていた。静謐な空間、響く音は呼吸の音、じっとりと身体の境界線に滲む音無き音の淡い音色だけだった。
キリストの神により支配された中世を過ぎ、時代を経るごとに少しずつ“死んで”いき、ついには破戒者によって死を宣告された。それでも神は息も絶え絶え、現代に微かな光を残している。各コロニーには今だ教会が聳え、多くはないが祈りをささげる者もまだいる。
それでも形骸化し、机上あるいは書面の上に押し込められていった神をただ惰性で祈るだけというのが実情で、祈りをささげる者たちはいったい何に己の篤い信徳を捧げているのか理解すらしていない。
だが、ここには確かに神がいる。
宗教と言う枠組みなど最早関係ない。ただ素朴に裸形の神なる何ものかに呼びかけ求められ、それに応えるようにして祈りとともに神なるものの内へと参入していく、本当の信仰の空間が、ここにある。エイリィはジーンズのポケットに片手を入れて天井を仰ぐ。
「こんなところがあるんだねぇ……」
サイド3
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