20話
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今日もなにやら天気は思わしくない―――。
こんな日ぐらい、もっと気温を上げてくれればいいのに―――厚い雲に覆われた曇天の空を、獏と仰ぐ。天気予報でも曇り空であることは確認していたが、実際に目で見る分厚い雲の層は、やはり鬱とした気分にさせる偉容をこれでもかと言わんばかりに見せつけてくる。クレイ・ハイデガーは、あてつけでしかない文句が湧き出るのを、自省することもしなかった。雨が降らないのが、せめてもの救いであろうか―――。
いや、それどころではないと言った方が正しい。そんな思索を巡らせることで、当面の艱難から目を反らしているのすぎない。一般常識からすれば、艱難というほどのものでもないのだが、クレイにとっては、今まさに迎えんとする「任務」は、甚深なまでに艱難だった。
フライトジャケットのお蔭で寒さに身を縮こませることはないが、どうにもこの天気の悪さが気を削がせる。
基地前のゲートに我無く立っていると、クレイのBDUのポケットの中で携帯端末が痙攣する。その軋むような音と震えに、大仰にびくりとした。恐る恐る携帯端末を取り出し、呼び出し画面を見る寸前まで、クレイの心臓は生涯で最も忙しなく収縮と膨張の運動を繰り返していたに違いない。ハイスクールへの入試でも、士官学校入学のテストの時だってこんなに緊張したことはなかった気がする。
だが、呼び出し画面が示すのが予想と違っていたことに気づくと、益のない安堵感を覚える―――同時に、呼び出し画面に提示された名前に、クレイは口を噤んだ。そうして、応じた。
(えー、こちらコマンドポスト。ロメオ、聞こえてるか?)
端末越しに聞こえた声は神裂攸人のものだった―――生真面目そうに繕った声に、クレイは苛々と呆れが臓腑に溜まるのを感じながらも、敢えて顔を固くした。
「こちらロメオ。何か」
(貴官の装備は今次作戦に不適切ではないか。今日は基地内待機任務ではないのに何故軍服か)
「小官は「任務」と聞いている。問題はない」
はぁ、と携帯端末越しに溜息が鼓膜に触れた。
「だってしょうがないじゃねーか。俺そんな服なんて持ってないし、買う暇も無かったし! て言うか、お前どこから見てんだよ!?」
きょろきょろと周囲を見回し、背後を振り返える―――。
にこり、と笑みを浮かべた門兵がサムズアップする。黒い肌の中にちらと見える白い歯が眩しい。
(お分かりいただけただろうか?)
「ったくちゃんと仕事してろよ……」
呆れの視線で門兵を睨めつけるながら、クレイも悪態とともに溜息を吐いた。どうせあの門兵も楽しんでいるに違いない。
なんで俺がこんな目に遭うんだ―――。
眩暈を覚える。こういうのは俺じゃあなくてもっと適任がいるだろう。それこそ、この電話の向こうの奴とか―――。
「クレイ!」
鬱々とした思案を破
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