20話
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ことがある、という事実に表情筋が複雑に強張る。
困惑したように眉宇を寄せたエレアが指輪とクレイの顔を交互に見比べる。
―――何か変ではないか。流石に手放しで喜んでくれるとは思ってはいないが、眼前で困り顔をするエレアの様子は明らかに予想外だった。
何か致命的ミスを犯している―――まず、物品の選択ミスが思い浮かんだが、それはないと思う。確かに彼女はあの指輪を―――。
指輪。そのキーワードが頭のどこかに引っかかる。
指輪を贈る、とはそもそもどういう意味だったか―――指輪を贈る、とは暗に婚約を意味してはいまいか。
クレイとエレアの関係はあくまで仕事の同僚―――仲間、であって仲睦まじい暖色の関係ではない。今回彼女と2人でいるのは、あくまで彼女の護衛という理由なのだ。どんな因果で自分が選ばれたのか、というかこれのどこが任務なのだと思うが―――その癖、基地司令権限で下された任務というのがなおのこと異様である―――どちらにせよ彼女とはまだ初デートどころか恋人以前の関係なのである。その上で、物として残る物を、まして指輪をプレゼントする。
プロセスは悪くなかった。が、考えれば考えるほど、愚策と称することすら尊称に感じてしまうほどの行為ではないか―――。
「ご、ごめん。俺こういうの全然慣れてなくてさ…。普通に考えれば指輪なんて重いってわかるよな」
なるだけフランクになるように砕けた笑みを浮かべる。それこそ気落ちしている気分を気取られては、エレアが悪いかのような印象を与えかねない。なるべく禍根無くことを終わらせることが最善だ。
はい、と手を差し出す。一瞬、手が震えそうになるのを精一杯静止した。おそらく、震えは相手に伝わらなかった…と思う。
エレアは、しかし両手で指輪を握りしめ、ふるふると頭を横に振った。
「エレア?」
「違うの…そういうんじゃなくて」
もじもじと歯切れの悪いように身をよじる。
陽光を受け、化粧でほんのり赤らんだ彼女の頬が柔らかに照る。
「本当にくれるの?」
クレイの顔を覗き込むように、上目づかいに見やるエレア。
「もちろん。エレアが喜んでくれたらなって思って買ったものだ」
どうやらクレイが余計な勘違いをしていたらしい―――安堵を感じたクレイの声色も、自然と緩んだ。
「ありがと…凄い嬉しい」
顔を上げた彼女の満面の笑みが、その言葉を何よりも物語っていた。
「どういたしまして。そういってもらえると俺も良かった」
クレイも思わず笑みが零れた。
後ろ暗い予想も杞憂に終わって良かった―――けれど。
エレアのその他意のない無邪気な笑みに、クレイの胸がちくりと痛む。彼女の無垢につけ入ろうとする自分の小賢しさと浅ましさ。純粋に彼女に喜んで貰いたかったから、だけではない自分の思惑を、クレイの高潔な理
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