20話
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うんうんと唸った後、エレアは重たい息を吐いた。
「じゃあ、行こっか」
振り返ったエレアのキャンパスはいつもの絵の具が塗られていた。
曖昧に返事をしながら、もう一度値札を一瞥する。よもや、とも思ったが、やはり桁数に間違いはない。
「買わないの?」
既にショーウィンドウから目を離していたエレアの目と、先ほど彼女が熱中していた指輪を見比べる。先ほどの素振りは見るからにその指輪をはめている自身を夢想していたようだったし、見当違いではないハズなんだが、と思った。
案の定、さっと顔に影が差す。
ぎゅっとタスマニアデビルを抱きしめる力が強くなった。
あぁなるほど―――”ジャック”と目が合ったクレイは、それとなく理解した。この真っ黒であまり可愛らしいとは思えないこのタスマニアデビルのぬいぐるみ、凡庸な見た目に反して結構高価なものだったのだ。少なからず、エレアが欲しがっていたリングの二倍以上の値段ではある。
欲しいけれど買うに買えない。きっとそんなところだろう。理解するや、逡巡―――決断。
「ちょっと待ってて」
エレアの返答も待たず、クレイは店の中へと入った。
広さは20畳ほどの店内は案外飾りっ気がない、というよりほとんど簡素と言ってよかった。
「いらっしゃいませ」
クレイを出迎えた店員は、50代ほどの女性だった。品のよさそうな薄い目に、パリッと着こなしたスーツの様を見ると、若作りとは違う若さを感じさせる。
「店の前のものならこちらにありますよ」
理知的な顔立ちに親しみ深さを感じさせる笑みを浮かべた店員が導くように手をもたげる。その手の先導の先は店と奥のプライベートを仕切るように、レジとともに横たわるショーケースだ。その中を覗き込めば、すぐ件のリングが見つかった。
見つけるや、すぐ購入した。値段は大したことはない、ちょっと高価な本を買ったと思えばむしろ安いくらいだ。
やたら細長い紙袋を受け取り、礼を言いつつ店を出る。
「はいこれ」
縦長の紙袋の下にぽつんと蹲る黒い巾着袋を人差し指と中指で摘まむようにして持ち上げ、ぽかんとしたエレアの顔の前に垂らした。
「あ、これ」
袋を受け取り、紐を開けて中身を取り出した彼女が目を点にする。
天使の陽を受け、桜色のリングが翼ある光を厳かに放った。
「あげるよ」
「え…なんで?」
「折角というかなんというか。なんか、『そういうもの』らしいし」
攸人曰く「まぁちょっとしたなんかをプレゼントするといいんじゃない」とのことだったのと、昔プレイしたPCゲームのデートシーンでは確かにプレゼントとかあったなとという追想がある―――参考がPCゲームってそれどうよ、とは思うが。とまれ、決して冒険的な行為ではない、という自覚は強い―――こうした思惑の根底に『浅ましさ』がある
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