20話
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運んだり…ってのは別な話だったかな」
記憶を掘り起こすように頭に手を当てたクレイが言うと、彼女の真紅の瞳が一瞬クレイを捉え―――空を仰いだ。
死んだ―――。
“天使の階段”を見上げたまま、ぽつりと彼女が呟いた声がクレイの耳朶を打った気がした。いつものあどけない声色とは違う色の音、沈鬱したような―――。
思わず彼女を見る。
陽の光を受けた彼女のかんばせには、黒い色使いはない。
―――気のせいか。
タスマニアデビルを抱く彼女の顔にはいつもの笑みが戻っていた。
特に気にするでもなく再び大通りを歩きながら、クレイはひたすら昨日夜通し考えた今日の予定を思い浮かべた。
あとは映画の一つでも見てそれからそれから―――。
「うわー! うわー! うわー!」
いつの間にか先に行っていたエレアが何かの店のショーウィンドウに顔を張り付けんばかりにして歓喜の悲鳴を上げていた。
急かすように手招きする彼女のもとに寄り―――クレイは息を飲んだ。
「綺麗だね」
先ほどの神々しさへの畏敬というのとはまた違った美麗さにエレアが年相応の黄色い声を漏らす。
ショーウィンドウに並ぶ小奇麗なアクセサリーの中で、彼女の目を引いたのは一際小さな金属の欠片―――指輪だった。
やや動揺する。
どうして指輪? と彼女の横顔を伺えば、夢中で指輪を眺める笑みがあった。
ファッションとして指輪をするのも珍しいことではない、と聞いたことはある。ちょっと綺麗なものに憧れる―――何もおかしなことはない。うんうんと頷きながら、邪念を払うようにショーウィンドウに並ぶ品物を注視する―――素振りを見せながら、クレイはエレアを横目で一瞥する。
目を輝かせて、というよりもきらきらさせてといった様子で穴のあくほどに眺めるエレア。
クレイは顔を上げ、改めて店構えを見た。
どこかしらのチェーン店ではなく個人経営の店のようだ。豪奢、というわけではないが小奇麗に整えられた店構えは、経営者の品の良さを思わせる。店主は年若い女性かもしれない。
『ニューエドワーズ』は軍事コロニーとはいえ、新生サイド4コロニー群再生計画の足掛かりとして設立された一面も持つためか、軍属に関わらない人も多い。度重なる戦争で微かにだが厭世観漂う地球圏の中では、こうした個人経営が儲かるぐらいには活気にあふれているコロニーだった。
平日の昼過ぎということもあって、ショーウィンドウの中にはまばらに人がいるらし。
数秒。
数十秒。
時間単位が分を過ぎても、銀髪の少女はぴくりとも動かずにショーウィンドウを眺めていた。
彼女が見ているのは相も変わらず―――指輪だ。ピンクゴールドにしめやかに閃くリングは、それほど高価なわけではないらしく、子どもが少し我慢すれば手が届くほどの金額だ。
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