20話
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恋人同士―――ない。絶対にない。胸が微かにドキドキするのを確かに感じながらも、自分の考えを即否定する。
恋人―――肩肘をついた手のひらの上に顎を乗せた格好で、クレイは静かに溜息を吐いた。
フラッシュバックする光景。
攸人と並んで歩いていたエレアの後姿。
ちらと覗いた彼女の横顔―――笑み。
なにもそれだけでエレアは攸人のことが好きなのかな、と思うほど短慮ではない―――少し思ったが―――クレイとて女性と喋るときに笑うこともある。女性と2人で何かしたりもする。その時クレイは別にその女性に好意を寄せているのではなくても、だ。
だがそれはあの夜の彼女の笑みをも、そんじょそこらの笑みと同価値であるとすることでもある。そしておそらくあの時の彼女の笑みも、同僚や友人への笑みだったのだろう。考えてみれば、初見でクレイに好意を寄せることなぞあるはずがない。一目ぼれさせるほどの容姿でもなければ性格でもないというのは十二分に承知している。
だが嫌われているわけではないのだからアタックのチャンスはあるではないか―――と言われればそうなのだが。
そうこう思案しているうちに、彼女はピーマンを全て処理していた。よほど不味かったのか、水を何杯も注いでは飲むを繰り返したのちに、クレイに毒気のない笑みを向けた。
「頑張ったな」
うん、と元気のいい返事と共にピースサインを作る。エレアにとってピーマンを食べることはそれほどの激戦だったのだろう。
こんな少女が、こんなまさに子どもそれ自体のようなエレアが。
世の中、というのは不平等なものである。
「―――じゃあ、行こうか」
ファミリーレストランを出れば、もう昼下がりといって良い時間だった。
曇天の空の間隙から味気のない陽光が差し込む。最悪雨が降ることも覚悟したが、どうやら気象管理局の連中はどうやら話の分かる奴ららしい。
「きれいだね」
空を仰ぐエレアが目を細める。
暗鬱とする黒雲から曙光が差し込む様は確かに美しい。地球のそれとは異なり人の手によって再現されたものであるが、神の存在をその光で確信するのも頷ける。
「あれ、天使の階段って言うんだよ」
「てんし?」
エレアが小首を傾げる。
宇宙世紀も始まって1世紀が経とうという0094年、『神』の存在は迷信とされ、多くの人間の精神から排斥されてしまっている。その善悪や本当に『神は死んだ』のかは議論の要するところだがそれはともかく、神が何事なのか知らないということは宇宙世紀の若い世代では珍しいことではない。クレイもある程度は知っているが、それでも曖昧にというだけにすぎない。
「ん〜、羽が生えた人?」
「羽が生えてるの!? 人に?」
目を丸くしたエレアが空を見上げる。
「いやまあ人っていうか。神様の言葉を伝えたり死んだ人の魂を
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