20話
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識は無くならないのだ。
「苦いからな。嫌いな人は多いっていうし」
むー、と頬を膨らませる。こんなものがこの世に存在するだけでも心外だ、と言いたげだ。
親をピーマンに殺されたのか? そんなお定まりのフレーズが頭を過る。
「くさいのがいや」
「臭い?」
あまり聞いたことのない感想だ。ピーマン嫌いの子どもの常套句は苦いから、というものだとばかり思っていたが。
―――嫌いなものは仕方ないし誰だって嫌いなものはあろう。好みとは真偽の判断の及ばぬプライベートな領域である。それ故に一々厳格な大人の真似事のように食べろ、とは言わないが。
顔を上げ、店を伺う。
地球圏全規模展開する有名チェーンのファミリーレストラン。名前に反して筋骨隆々の巨漢がマスコットという店構えの『リトル・ボーイ』は、確かにチェーン店でしかない。食べ物を残したところで、近くの学校のアルバイトが事務的に処理するのが精々だろう。
「食べないのなら貰うが」
かといって残すのも憚られる。
「ええー?」
「調理した人に悪いし。俺は嫌いじゃないし」
彼女の前に横たわる鉄のプレートを見る。
どうせマニュアル通りに火を通したものに過ぎない、所詮は合成タンパクの品。高級な天然物であるならいざ知らず、こんなものに頓着する理由はない―――と言われればそうなのだ。単に親の教育方針だったからというだけに過ぎない。
「クレイは食べたほうがいいと思う?」
「いいっていうかまぁ、俺は残すってのがあんまり好きじゃないっていうか」
束の間、エレアが押し黙る。じっとピーマンを眺めること数秒、「食べる」と一言いうや、木製の取っ手のフォークを緑色へと突き刺す。そのまま口に運び―――盛大に顔を歪めた。一噛みごとに悶えるのなら食べずとも―――そう言っても、エレアは頑なにピーマンを咀嚼しては口に運んでいく。
―――窓辺りの席ということもあって、脇目を振れば自然と外に視線が行く。
街行く人の数は多くないが少なくもない。時折道を横切る人がこちらに向ける視線はどんな意味を含蓄した視線なのだろう。
ちらとピーマンと壮絶な果し合いをするエレアを一瞥する。
陳腐な表現だが、間違いなくエレアは美少女だと思う。銀髪ということで神秘的でもあり、街を歩いている最中はひっきりなしに視線を意識した。
そのような美少女の脇にいるのは、対してパッとしない男。特に手入れをしているわけでもない栗色の髪は寝癖こそ流石にないが、整髪剤をつけているわけでもない。
周りから見たらどんな風に見えるのだろう。兄妹―――にしては顔面の格差社会にも程がある。父娘では歳の差がなさすぎだ。クレイが軍服を着ているから同僚といきたいがエレアは軍服ではない―――よもやいたいけな少女をたぶらかしている軍属などと見られていたり?
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