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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
20話
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―――そう思うのは、ヘッドセット越しに聞こえた声が笑いをかみ殺したものであると知らない人間ということだった。
「なんです?」
 肩を落としながらも、狙撃銃は構えたままだ。流石にスコープ越しでなければ、遠くで道を行く2人連れを識別するのは難しい。
 むろん、弾倉には相応のものが入っているが、トリガーガードにすら指は触れていないし、そもそもセーフティはかかったままだ。
(2人はどんな感じだ?)
「まあ可もなく不可もなくといったところでしょうか。問題もなさそうです。オーウェンも問題ないと―――あ、今ぬいぐるみ売ってる店に入りましたね」
(ぬいぐるみ?)
 訝るような声だ。えぇ、と相槌を打つクセノフォンは通信越しの声色に、疑問に持つようなことだろうかと思った。
 確かに予定外だが、ショーウィンドウに飾られた可愛らしいぬいぐるみにエレアが惹かれたと思えばおかしな点はない。
「何か?」
 一応聞いてみたが、通信相手―――フェニクスは、問題ないというだけだった。問題ない、というならそれに拘泥する理由もない。了解、と一言だけ応じた。
(何かほかに問題点はあるか?)
「特に―――あ」
(どうした?)
「いえ―――なんであいつは軍装なのかなと」
 一瞬の無言の後、ヘッドセットにやつれた嘆息が漏れた。
(あいつがモテないってのはそういう理由なんだろうよ)
「あぁなるほど……」
 得心すると同時に、クセノフォンも歯切れの悪い声になった。
「それでは通信終わります」
(ああ、頼む)
 束の間、ハムノイズの音が耳朶に触れる。
 それでもまぁ―――クセノフォンはスコープから目を離すと、ごつごつした顔に皺を刻んだ。
                    ※
「ねージャック?」
 昼も少し過ぎた時間のファミリーレストランは、それでもそれなりの客足がある。騒がしいほどではないが、子供連れの客の闊達さは感じ取れた。
 ―――おそらく、目の前に座る彼女もまたそんな喧騒のうちの一つなのだろう。運ばれてきた料理を口に運びながら、先ほど買った大きなぬいぐるみに話しかける彼女に目を細めた。
「名前つけたの?」
「うん。ジャックっていうの」
 こんにちは、とエレアが言うのに合わせ、エレアに抱かれた真っ黒いぬいぐるみがぺこりとお辞儀する。
「黒い…豚か?」
「たすまにあでびるって言ってたよ?」
「タスマニアデビル?」
 オーストラリアの珍獣……だっただろうか。コロニーが直撃したオーストラリアは気候ががらりと変容したせいで生態系も変わり果ててしまったが、動物愛護団体の懸命な保護活動などもあって絶滅を免れた種もいる。タスマニアデビルもそうして絶滅を免れた種の一つだ。
 なるほどよく見ればおなかの当りに有袋類特有のポケットらしくものが装飾されてい
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