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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
20話
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い気がする。あるいはリリスか。
 微かな沈黙の気配。不味い、と思ったクレイは、咄嗟にしゃべることを考えた。沈黙になって気まずい雰囲気になることの心苦しさに苦い思い出のない人間などいないであろう。
「服―――」
「え?」
「いや、可愛いなーって……」
 クレイの声は、尻すぼみになってしまった。
 エレアを直視していることなんてできなかった。
 昨日攸人やらヴィルケイやらヴィセンテやらと語り合ってただ言われたのは、いいと思ったら口に出せということだった。自分の惨めさを考えないようにするために咄嗟に思いついたことだったが、いざ実践してみるととてもじゃないが正気ではいられない。何分チキンなクレイには難関すぎる。
 きょとんと目を丸くしたエレアは、数秒ほどそうした後に、ぱっと笑みを浮かべた。
「ありがと」
 化粧のせいだろう、白い肌がほんのりやわらかな桜色に染まった彼女の頓着ない笑みだけで、クレイの心臓はもう役立たずの機械に成り果てるところだった。
 上手く行った…らしい。奇妙な満足感に浸されたクレイは、顔がにやけで歪むのを必死に自制しながら、おう、と素っ気ない声で相槌を打った。
「……クレイ『も』そういう服なんだね?」
「え? うーんまぁ……そうかな」
 歯切れ悪い返答―――そんなわけはないのだが。
 恐らくスクールの制服をイメージしたコーデ、というきちんと意味のあるエレアに比べて、クレイがBDUにフライトジャケットという服装を選択したのは単に寝間着以外の碌な私服がないという理由でしかない。こんなことならもっと服に金をかければ良かったなぁ、と今更に思っても後の祭りも甚だしい。
「えーと、じゃあ、行こうか?」
「うん!」
 元気のいい返事に、思わず苦笑いを浮かべた。
 目指すは歓楽街。曇天の空を今一度眺めたクレイは、今回の『任務』に―――『要人(デ)の歓楽街(ー)逍遥(ト)の護衛任務』へと心を引き締めた。
                    ※
 歓楽街、とあるビルの屋上。
 吹きすさぶ風は冷たく荒々しい―――歩兵用のフル装備に身を包んだ男は、馴染ともいっていいその乾いた空気を身体で感じながら、己の腕の中に横たわる物々しい銃器を構えた。
 ビルから目視で見下ろせば、閑散とまではいかずとも、人通りの少ない街並みが広がっていた。
 標的(ターゲット)はすぐに見つかった。通りを行く2人連れ。銀髪の小柄な女性に、何故か軍服姿の男。
 事前の予定通り―――巌のような顔に猛禽のかぎづめのごとき眼が笑みに歪む―――。
 男―――クセノフォン・ブリンガーは、両手に抱えるほど大きな狙撃銃のスコープに目を合わせた。
 照準レティクルの中央に、栗色の髪の頭を重ね―――。
(こちらコマンドポスト、聞こえているか)
 ごく普通の連絡
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