20話
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だが、道は、あるのだ。
「その…俺なんかで良いのであれば―――というかむしろ俺も、その…」
吃る。その先の言葉を言おうとしても口が引きつる。
だって仕方ないではないか。人間には未経験の事実に対して上手く対処できない性質の人もいるのだ。
「かわいい」
「うぅ…」
吃音を繰り返す様を評してのエレアの一言でなおさら顔を赤くしてしまった。
ジゼルもそんなことを言っていた気がする―――うぅむと難しい顔をして、エレアは猶更ころころと笑みを浮かべていた。
「あーもう、そう。そうだ、ここにいる人は好きという感情を強く感じているようだ」
ええいままよと口にする。口にしてから、もっとましな言い様は無かったのかと酷く後悔。そして言った事実に耐えられず、へなへなと身体を小さくしてしまった。
気が抜けたらそのまま拍動する心臓が口から転がり出てしまいそうで―――。
ふと視界の端で姿が動く。へ、と顔を動かしたときには、勢いよくエレアがクレイの身体に抱き付いてきた。きっと台詞枠があるならビックリマークとエクスクラメーションの系列を滅茶苦茶に並べているであろう、頭を真っ白にしながらしどろもどろに所在なく手を彷徨わせる。
結局、数秒ほどどこに落着させていいのかわからず、クレイはエレアの背中と腰の間ぐらいの場所に手を乗せた。
エレアが顔を上げる。
彼我距離10cm。コンビニで売っている定規ほどの距離は、確かに物理的にも内的にもそれにふさわしい距離だった。
彼女が緩く目を閉じる。それが何を意味するのかすぐに理解し、クレイは足の指先に力を入れてグーパーを繰り返した。
今度はそっちから、と。彼女の存在が、甘く語っていた。
南無三。恐る恐る目を閉じ、クレイは彼女の境界線的器官に自分の存在の産まれ出る器官をゆっくりと重ねた。かつん、と彼女の前歯に自分の前歯が当たったのが、なんとも無様で―――。
でも。
熱いと、思った。
※
寒いと、思った。
理屈上は、これでもほかのコロニーよりも大分温かい温度設定にされているのはわかるのだが―――。その癖、アイスクリームなんかを頬張っているのだから、文句を言う資格はないと思う。
「う〜ひゃっこいひゃっこい」
道路沿いにあるアイスクリームの屋台で買ったアイスクリームを舌先でぺろぺろと舐めながら、女は肩で風を切る。
厳冬期の北海道に比べれば大分マシだが、何分薄着で来たのが不味い。温暖な天気、と聞いていたのに―――天気予報を見ていないのが悪いのだ、と言われると何も言えないのだが。
さっさと基地に帰ろう。そして今日はビールでも飲もう。あったかい部屋で、冷えたビールでも飲みたいところだ。
「―――おろ?」
ふと、女は道路の反対側の道路を歩く
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