20話
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しているというのも珍奇な事態だが、些末なことであろう―――。
「だめかな?」
クレイのその眉間に皺を寄せて瞑目する姿を、どう応えたものかと難儀する姿と受け取ったらしくどこか不安げに眉宇を寄せていた。
「いやちょっと考え事を」
「むぅ…」
「というかそれはこちらの台詞なんですがね…だって、ねぇ」
「だってって?」
ころんと小首を傾げる少女。
エレアと出会って、そこまで日が経っているわけでもない。何かあったわけでもない。
愛の感情に、物理的時間経過は必要条件でこそあれ十分条件ではない。重要な継起は外的時間ではなく内的持続における何がしかである。だが、その内的持続における何がしかとやらも特に思い当たる節が無いのだ。
いや、むしろ―――脳裏に過るあの日の光景。
「てっきりユートとだと思っていたが」
「なんでユート?」
はてな、と首をかしげたまま唇に指をあてる。
「いやだって、前に一緒に歓楽街にいたからさ。あのデパートに居たじゃない」
「あれ、あの時クレイもいたの?」
「あぁちょっと用事で」
ふーんと肯く。エレアはやや恥ずかしそうな照れ笑いを浮かべて、くいくいとスカートの裾の部分を摘まんで見せた。エロチックだななどと思って慌てて目を逸らした。
「ユートはクレイと仲良いんでしょ? だから、クレイどんな服が好きなのかなって聞いたら一緒に買い物付き合ってくれたんだー。わたし、服なんて買ったことないから」
ぱたぱたと両手を広げ、改めて服を見せるようにする。
攸人の顔を思い浮かべる。絶対にからかい目的で楽しんでやがったのだろう。喜んでいいのやら、憤然とすればいいのやら―――。
「これって変じゃないかな? こういうの穿いたことないからわかんないんだけど」
スカートとニーソックスを軽く叩く。
確かに華やかな見た目の彼女だが、軍服以外の服を着ているイメージはなかった。ガーターベルトをくいくいと持ち上げては不思議そうにする仕草は、端的に善かった。
「変ではないよ―――むしろグッジョブ」
「そっか―――これちょっと金具が変な感じするから変なのかなって」
彼女の手先を見る。確かにニーソックスをずり落ちないようにするための金具が皮膚と接している―――そういう苦労もあるのだなと変な考えが浮かんだ。
攸人は関係ない。だとしたら、クレイが戸惑う理由も、また無かった。
心臓が拍動する。目の前の少女は、クレイ・ハイデガーという存在にとってあまりにも不相応な存在だった。
高嶺の華。だが世の通年として、高嶺の華へとたどり着く山道は険しいとは限らない。むしろ道は急峻とは程遠く、無謀な登山者がひょうひょい登って雅な華を無粋に摘んでしまうものなのだ。ただ、偶然にもクレイの前にその道が開けたにすぎない―――。
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