20話
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あ、という暇はなかった。いや、暇がなかったのではない。物理的に、クレイは口を開けられなかった。身体全体にかかる重さと服越しでもわかる彼女の女(からだ)のふかふか(・・・・)とした感触。そして何より、クレイの唇を塞ぐ彼女の熱さで言葉を発することなぞ出来そうもなかった。
実際、それは些末なキスだった。互いの唾液を交わらせるようなものでもなく、ジュニアハイスクールの、いや、ませたプライマリースクールの子どもだってしているような、ただ唇が触れ合うだけのソフトな接合。
どれほど唇を触れあわせていたか、などという枕詞を思い出すこともないほど、客観・主観時間にして短い間の存在の接合だった。ベンチに座るクレイと抱き合うようにして膝の上に乗っかったエレアは、クレイの胸に手を当て、それで自分の身体を支えるようにして、ゆっくりと溶解して融合していた粘膜に境界線を引いた。
「えへへへ…しちゃった」
隠し切れない羞恥を孕んだ無邪気な笑みを浮かべて、彼女の唇が蠱惑的に形を変える。
「しちゃったって…」
「だって恥ずかしくて言えないし…クレイから言ってくれないし。こういうのは、男の子の方から言うんだって聞いたもん。るーるいはんだよ」
ぷー、と頬を膨らませるエレア。赤い瞳は恨めし気にクレイを睨んでいた。
「マジ?」
「マジじゃなかったらこんなことしないもん」
いよいよエレアはクレイの頬を両手で摘まむと、ぐいぐい頬を引っ張る。
案外力が強い。彼女の頬を摘まむ力は万力―――とまではいかなくても、そのひ弱そうな外見からは大分乖離した力だった。流石は軍属ということか―――って。
「いだだだ…いてーよ」
ぺちぺちと彼女の手を軽く叩く。
「あ、ごめん」
ハッとしたエレアは、慌てて頬を摘まむ手を離した。いいよ、と笑みを作りながら、両手で頬に触れる。多分、赤くなっているだろう。
「随分力が強いんだな」
いてて、とわざとらしく言いながらお道化てみる―――クレイ本人としてはなるべくフレンドリーに振る舞ってみたつもりだったが、エレアはやや戸惑ったように肩を竦めてしまった。
「変かな…」
伏し目がちにクレイを赤い目で見上げる。
身体を小さくする少女。怯えたようなその姿は、その外見相応にひ弱に見えた。
「その…『普通』じゃ、ないから」
「あ―――」
だが、エレアという少女は『普通』ではないのだ。その少女は、ひとたびMSという剣を持てば、戦場に勇壮を轟かせる技量の持ち主なのだ。その腕は身をもって知っている。
ニュータイプ。強化人間。
後頭部を痛いくらいに掻く。
『普通』という言葉。『異常』という言葉。その言葉をすんなりと受け入れかけたことが不愉快だった。
腕組みする―――膝の上にエレアがちょこんと乗っていて、その正面で気難しい面を
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