20話
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。そのまま、彼女の右手がするりとクレイの脇を犯し、その小さな手のひらを、クレイの手のひらに絡めていく。
柔らかい手のひら、温かい彼女の肢体。クレイの腕が彼女の脇腹に、そして微かに―――彼女の、乳房に、触れて、い、た。
「ね、クレイ?」
クレイの思考がついていかない。なに、と応える声は酷く冷静だったが、頭の中の新皮質は壊死したように真っ白になっていた。
言ったまま、彼女は何も言わなかった。彼女の手のひらを握る力が、徐々に強まっていく―――痛い、と思うほどに。
握られるがままにしている手のひらが、じっとりと汗をかきはじめたことに焦りを感じ始めながら、やはりそうなんだろうかと思った。ちらと一瞥すれば、彼女は俯いて―――雪解け水のような銀髪からちらと覗く外耳がほおずきみたいに紅かった。
でもなんで、という答えは相変わらずで―――クレイの迷いも当然なのだ。エレアとクレイの関係なぞ、振り返れば振り返るだけ特筆するものでもなかった。彼女と話したことなど片手で数えることができなくなったがまだもう一方の手のひらの半分も埋まっていないという数だし、劇的な出会いをしたわけでもない。ただ、彼女は一度だけ意味深な素振りをしてみせたことはあったが―――なら、あの時から? でもなぜ?
どうしていいかもわからず、それでもクレイが彼女の手を握り返そうとしかけた瞬間、手のひらに感じていた痛みがどこかへ行った。拍子に、彼女の身体から感じていた柔らかさも温かさも、クレイの隣から逃げていく。
すっくと立ち上がったエレアは―――指輪を左手の薬指から引き抜く。クレイが呆気にとられるのもお構いなく、彼女がぐいとその飾りっ気のない指輪を突きつけた。
はめて。
俯いたままの彼女の口がその言葉の形に歪む。綺麗に切りそろえられた前髪のせいで、彼女の目元は窺い知れなかった。さくらんぼみたいにあかい彼女の白い頬っぺたは、はたしてチークシャドーのせいなのだろうか?
はめて、ともう一度彼女の薄くて婀娜っぽい唇が喘ぐ。
そっと、彼女の手からリングを受け取ると、彼女が差し出した左手を手に取った。小さな手だ、と思う。ごつごつしていて、手入れもしていないクレイの手とは違ってすべすべしていてぷにぷにと柔らかくて、ちゃんと手入れのされた手だ。
逡巡の後、クレイはゆっくりと叛逆した。理不尽なまでの罪悪感を負いながら、クレイは彼女の指に―――薬指に―――リングをはめた。サイズ合わせをしていないハズの指輪は、金庫の電子ロックを開けるように、綺麗にはまった。
綺麗だけれど飾りっ気のない手のひらで、唯一ちょこんと居座る桜色の指輪。その様を凝視していたせいで、エレアに名前を呼ばれたときにすぐに反応できなかった。相槌をうつのにワンテンポ遅れ、慌てて顔を上げた時ようやく気付いた。
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