20話
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性が責める。
きっと―――クレイは彼女の笑みから目を逸らし、まっすぐ伸びていく通りの向こうに目を投げる。
アニメの主人公とかなら、本当に純粋な気持ちから善意を行えるのだろう。先ほど自分が言った言葉も、エレアの笑みを正面から受け止めて素直に言えるのだろう―――所詮、クレイ・ハイデガーは疚しいだけで外面を取り繕うので精一杯な存在を脱せないのだ。そして、それを顔にも出さずに平気な面をしていられるような存在なのだ。
そうしたクレイの内面はともかく、エレアが喜んでいるのは事実だった。この予定外のプレゼントの後、終始エレアの顔にはたんぽぽの花のような笑みが咲いていた。
もう後は帰るばかりという時になって、エレアが気まぐれで入った公園のベンチに腰掛けたクレイは温い溜息を吐いた。
長時間の緊張による疲労と、大過なく無事に今日が終わったという安堵感。何より、彼女が表面上はつまらなそうにしていることはなかったことに奇妙な達成感があった。
「好き―――か」
公園の中心でちょうど居合わせた子ども数人と戯れているエレアを眺め、音のような一言を呟く。
明確に輪郭を持たないたった一言。
「好きってどういうことなんだろうな」
なぁ、と隣のベンチに座るタスマニアデビルの頭に手を置いた。真っ黒に混濁した目のジャックの不気味なほど満足げな笑みは、クレイの心を肯定しているかのようにも揶揄しているようにも感じた。
エレアとセックスがしたい、とは思う。
でもそれは『好き』なのだろうか。
単なる彼女をそこいらの如何わしい店に並んでいるダッチワイフと思っていることと、何が違うのだろう?
色情狂いと自分は、どう違うのだろう―――?
「ただいま」
公園から帰っていく子どもたちに手を振って別れを告げ、クレイの座るベンチまでぱたぱたと走ってきた彼女がクレイの隣に腰を下ろす。
雪解けの冷水のように美しい銀色の髪。
幼げな顔。
ミニスカートからちらと覗く健康的な肉感の太腿。
おかえり、と素っ気なく言いながら彼女のリリスを感じていたクレイは、ふと彼女の左手に目が行った。
逢魔の光を受け、ちらと光る桜色。
彼女の左手の―――薬指で、光っていた。
頭が真っ白になる。世間の習俗とやらはとんとわからないクレイでも、その意味は知っていた。
Why?
Warum?
なぜ?
Perche´?
ふと、とある答えに辿りつく。ある種、この状況で、思い浮かぶのが当然ともいえる答え―――でもなぜ、と置き去りにされた問いの巨大さに、クレイは途方に暮れた。
いやまあ、指のサイズの問題とかもあるのだろうが―――。
そんなクレイのことなど知ってか知らずか―――彼女の姿が揺れた。その揺れは戻ることもなく、そのままクレイの肩に頭の重さを乗せた
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