18話
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思わず熱を持った息を漏らす。
眼前に佇む巨躯は、黒に身をやつしたかつての姿とは明らかに趣を異にしていた。
単純な姿なら変わらない。深い海の底に沈む黒さは黒曜石のように透明だ。血が脈打つような鮮烈な真紅のラインも変わらない。
単なる気持ちの問題だろう。籠れるときはシミュレーターに籠りっぱなしというなんとも憂鬱になりそうな休暇を挟み、久々に見る実機を贔屓目に見るのもいつものこと、だ。
「他部隊で使ってる最新のOSの導入と、前に言ってたあれ、導入しておいたから。操作性結構違うと思うからいきなりぶん回しちゃだめだよ」
キャットウォーク上、クレイと同じように《ガンダムMk-V》を見上げる紗夜が手元の資料に時折目を落としながら言う。小柄な体躯に着込んだノーマルスーツはいかにも背伸びした子供のように見えた。
彼女が言ったことは朝のブリーフィングで渡された資料に載っていたことだ。知っている内容だが、こうして紗夜が告げてくれるということはそれだけ注意しなければならないということだろう。
「―――こちらデルタ了解。じゃあ頑張ってね」
「了解」
ぱたぱたと駆けていく整備服の紗夜を見送ると、示し合わせたように無線のコールが鳴った。
(こちらコマンドポスト、02、08の両名は機体に搭乗せよ)
「08了解しました」
クレイの応答の後、彼女の声が耳朶を打つ。
コロニー生まれのクレイには雪解けの清水の流れというものを生で見たことはないが、きっとその清らかさは彼女の声の音のようなのだろう。自然、心臓の不随意筋が随意的に萎む。
自嘲的な笑みが漏れた。いや、自嘲的ではないか。もっと素直な照れのような気がする。
「まるで子どもだな」
(何か言った?)
「あれ。いやなんでもないですよ―――外部点検、異常なし。搭乗します」
無線を切っていないことに多少声が早まる。
特に頓着した様子もなく、私語厳禁の言葉とともに了解の意が返ってくるのを聞くと、クレイはせり出したキャットウォークから身を乗り出し、《ガンダムMk-V》のコクピットへと身を入れた。
黒いドームの中心にぽつんと佇む管制ユニットに座り、操縦桿に手のひらを重ねる。
彼女の声。
彼女の容。
彼女の……。
不意に視神経を叩いた電流に微かに身じろぎする。紗夜の時と同じ妙な熱っぽさアダっぽさ。でも今日は違う―――もっと静かにより圧迫してくるような。
(整備兵は各壁内へと退避せよ)
(こちらデルタ、機付き整備兵退避完了)
(整備兵の退避完了を確認。機体を起動せよ)
「了解。主機をアイドル出力に固定―――異常なし。背部ユニットのバーニアを点火、出力30%にて安定」
(背部ユニットの起動確認、出力30%にて安定)
「背部ユニットに異常なし。各部出力確認―――完了」
(
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