17話
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刻の20分前。大分早く着いたが、おそらく―――。
ドアノブを回し、部屋内へと入る。
がらんとした部屋の中、ぽつねんと座る男が一人。俯いた男の前髪がだらりと垂れ、顔色はうかがい知れない。本でも読んでいるのだろう。ドアを閉めながら、よおと声を上げた。
「ん?―――あぁお前か」
今気づいた、という風に目を丸くしたクレイが顔を緩める。
あ、こいつ怒ってるな―――。
挨拶の言葉を一言、顔を緩めたクレイの素振りで攸人はそんなことを気づいた。
クレイがわかりやすい男だから、ではない。士官学校からこのかた、この気難しくも高邁を是とする友人と長く付き合うからこそ知れる感情の機微だ。現状に叛逆せんとする決然の意を、普段とさほど変わらない身振りで挨拶するハイデガーの名の男から悟った。
しかし何があったんだろう? 攸人の知る限り、クレイの近辺に変わったことはさしてないし、変わったことはむしろ良いことなハズなのだが。
「今日はなんか寒いな〜わざわざこんなことしなくていいのに」
「気象管理局も仕事だからな。なるべく自然状態に近づけるってことだろ」
顔を挙げもせずに一言。そりゃそうだけどさ、と言いながらクレイの隣に腰を下ろした。
「なぁ」
なんだ、と応じるクレイの視線は下―――やはり本を注視していた。
「お前、なんかあった?」
音もなく静かに、浅黒い肌の男が顔を上げる。鈍色の目はきょとんとして―――違う、
クレイの咽喉元が蠢動する。
「―――いや、特にはないが。なんだ?」
言うクレイの声も面も平素は差異ない。
「あぁそう」
特に意味もなさそうな会話。攸人が会話を続けないと見るや、興味をなくしたように鼻を鳴らし、再び本へと埋没していった。
どうやら攸人の直観は間違っていないらしい。この敬虔な学徒が直面した難問はいかにぞや?
覚えず、口角が上がる。この男はそうでなくてはならない。俺のような男とは違う。
―――この世界に意味も見いだせない俺なぞとは。
不意に、ドアノブの回る音で攸人は顔を上げた。
金髪の大男―――セーフティの外された狙撃銃のごときオーウェンの目がこちらを捉える。
「随分早いな。感心することだ」
「まぁ俺は気まぐれみたいなもので」
ちらと一瞥―――する前に、隣の男がすっくと立ち上がる。その運動に沿うようにしてクレイの顔を伺った。
「ノースロップ少尉、少々お話が」
「なんだいきなり……まぁ構わないが」
電灯の怜悧な光に撫でつけられたクレイの顔色は一目ではうかがい知れない。
クレイ・ハイデガー。凡百の有象無象の中の一人。
あぁそういえば―――一礼して腰を下ろすクレイを意識した攸人は、昨日のことを思い浮かべた。
雪の結晶。触れてしまえば溶けてしま
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