17話
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―――。
白い女は見間違えるはずもない彼女だった。行為者としての自分を映していたルビー色の瞳とポーセリン・ドールの滑らかな手触りの生々しさをどうして違えようか。とはいえしかし、その明晰さをこそクレイを懊悩へと落とすのだ。
あの時見たエレアのあの笑顔。あれを何よりも尊い至宝の一と思いなしたのは単なる早撮りでしかないのだ。尊さはある。至宝、というほどに惹かれる笑みだったのは間違いない。だがそれは唯一の宝物ではなかったのだ。きっとそれは、エレアの主観としてはクレイが友人に見せるのと一寸ほど価値の違いもない笑みにすぎないのだろう。何もクレイだったから見せたのではない。
なのに舞い上がっちゃってまぁ―――これがもう少し振られた経験がなかったら、非を彼女に求める愚劣を犯すところだ。得てして女性経験が貧相な男は、笑み一つを好意と勘違いしてしまいがちである。
別に振られたわけでもない。ただ0地点へと引き戻されただけ―――。
いや、とすぐ考えを改めた。0地点に戻ったのではない。0地点が終点なのだ。もとより恋愛、というものは極めて合理性を求められる科学的所作であるというのはあながち間違ってはいないのだ。無論稀、という変数は存在するが、往々にして女の子にモテるには相応の理由が必要なのだ。理由をつぶさに挙げる必要はない。そもそもクレイは、MSパイロットとしての技量や知の探究にこそ心血を注いだ代わりに、そうした努力を終ぞしたことがない男なのだ。
そうした現実に気づいたのは2年も前。そうした生を選択してしまった己への後悔も、もう2年前に済ませた。後悔にもまして、己が生へと誇りを持ったのも同じ時期。
なればこそ、クレイ・ハイデガーの為すべきことは決まっているではないか。
ばしばしと頬を叩く。乾いた空気のせいもあって、頬を打つ痛みは自分の加減よりも強いが、むしろ願ってもいないことだった。
頭痛はまだ居座ったままだ。流石にシミュレーターの使用は出来そうにないが―――。
―――やれることはあるはずだ。薬のせいもあってか、急速に意識に雲がかかっていくのを感じたクレイは、何の抵抗もなく眠気に身を浸した。
※
口笛の音が耳朶を打つ。
早朝8時をやや回った時間、ブリーフィングルームへ向かう攸人はひやりとする冷気に身を震わせた。日頃摂氏23度から26度に気温設定されているニューエドワーズにあって、今日の気温は20度と19度の間をふらつく。寒々、というほどでもなければないが、温暖に慣れた身としては身に堪える。フライトジャケットは着てくるべきだった、とシャツ一枚の我が身の浅慮を悔やんだ。
暖房も碌に聞いていない廊下を歩き、エレベーターを降りること数分。いつものブリーフィングルームについたのは予定時
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