17話
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時計の秒針の音。
整いきらない息はまだ荒く熱っぽい。
心の臓器が内側から鼓膜を叩く。
違う違う違う。今のは夢だ。所詮稚気が生み出した戯言。真に受ける必要は―――。
眼球の中で瞬く映像。
悶える白。
飛び散る白。
愉悦の顔―――。
やめろ、と叫ぶ。それはもう認めた。人はヒトである限りの呪縛から解放されえない、生得的行動だ。認めたからそれ以上突き付けるな。
心は拒絶する。それでもいつもより早く拍動する心臓の音が蝸牛のリンパ液をぐらぐらと揺らす。
恐る恐る。ハーフパンツに手を入れ―――ぬるりとした感触が肌を伝った。
咽喉に絡まりつくようなつんとする生臭さが鼻の粘膜をつく。
―――頭痛がする。後頭部に熱したアルコールを垂らされ脳細胞が死滅し委縮していくような酷い頭痛だ。全身も怠い。吐き気もする気がする。
着替えなければ。
思えば全身も汗まみれだったら下着も夢精でぐしょぐしょだった。ふらふらとベッドから立ち上がると、なおのこと鈍い頭痛で地面の感触を失った。もたつき、音を立ててベッドに尻もちをつく。どうやら眩暈もするらしい―――今日が待機任務中でよかった、と肩を下ろす。流石にこう頭痛が酷くては、MSに乗ろうなどという言葉は稚児の戯言も甚だしい。ブリーフィングに出た後に医務室にでも行くのが賢明だろう。
脳全体が脈を打つような感覚が落ち着くまで数分。なるべく頭痛が酷くならないように、そろそろとデスクまで地べたを這いつくばって行き、重たい身体に鞭打つ。椅子を支えにしてなんとか虚脱な我が肉を立たせると、テーブルの上へと目を凝らす。
碌に電気もつけず、相変わらず資料が散乱する中で、クレイはすぐに頭痛薬の入った手のひらサイズの白いケースを見つけた。水無しでも服用可能な点は、頭痛持ちのクレイにはいざというとき有難い。白い錠剤を3粒ほども口の中に放り込むと、飲み込みながら全裸になり、カゴの中へと服を押し込む。
ひやりとした空気が肌を撫でる。『ニューエドワーズ』は年中比較的温暖な気候に設定されているが、流石に夜ともなると冷え込む。そんな冷たさのせいか、薬のせいか―――薬のせいならプラシーボだろう―――頭に夜霧でも掛っていたかのような判然としない気分も幾分マシになった気がする。デスクの隣に聳えるロッカーから衣服を一式取り出すと、素早く身に着ける。
とりあえず一息。ベッドに寝転がり、まだ起床時間まで4時間はあることを確認すると、腕を瞼の上に乗せた。
ようやくいつも通りになった呼吸の音がメトロノームのように規則正しく音を刻む。
瞼の裏は黒一色。実際の色はともかく、光絶たれた世界は黒に沈んでいた。
そんな黒と黒と黒だけが在る世界の中に、ポッと光が灯る。まるで映画館のように、黒の中に映像が立ち上がっていく。
夢の映像
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